「武藤ちゃん、これからもっと仲良くなろうね。まずはお互い知らないと歩み寄れないから」

「うんっ……」

「アタシのことはこれから莉央って呼んでね」

「じゃ、じゃあ私は杏梨で! ……ひなたって呼んでいい?」

「うんっ!」


まだ答えは出ていない。

だけど私にとっての答えまでの一歩は踏み出した。

友情を築くのは難しいことだが、がんばってみたいと想いを笑顔にこめた。

こうして逃げ癖のある私はクラスメイトと打ち解けるために歩み出した。


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そうして和解に泣きじゃくっていると、玄関とのしきりとなるふすまが開かれ、彼が顔を出す。


「大丈夫そうだから、オレ戻るね。 ゆっくり休んでなー」

「あ……」

にっこりと笑って彼が手を振り去っていく。

敷布団に押し倒されている私は彼と目が合って、何も言えずにいた。

それに気づいた杏梨が身体を起こし、赤くなった目元をこすり、手を差し伸べてきた。


「追いかけなよ。助けてくれた大事な彼氏でしょ?」

「ーーうん、ありがとう。行ってくる」


その手をとり、私は立ち上がると駆け足で彼を追いかける。

人の気持ちに鈍感な私に振り返る余裕はない。


「いいの? あんた、隼斗のこと……」

「もう、いいの。なんか敵わないなーって思った」

「ういヤツめ。すぐいい人見つかるさ」

「ふんっ……」


すべての想いを拾えるわけではない。

この手で掴めるものは少ないかもしれないが、限りある分しっかりと向き合っていこうと決意した。


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走っているとやけに呼吸音が目立つ。

運動不足を痛感するほどに、私の足はもたもたしていた。


「鈴木くん!」


一面、絨毯の敷かれた床はやわらかい。

足が埋もれてしまいそうだと、重たいばかりの足を懸命に動かした。


「武藤さん? どうかし……」


高い身長を見上げるには首が痛い。

だけど痛くたって見つめていたい大好きな人に私は思いきり抱きついた。