私の怯えを察した莉央が顔をあげ、手を伸ばして敷布団を握りしめた。

「こっちこそごめんね! 武藤ちゃんにも悩みあるのはわかってるんだけど……」


莉央の隣で膝を抱えて丸くなる杏梨に目を向ける。

普段は強気できびきびした杏梨がすっかりと落ち込んでおり、ギャップに目を丸くした。

意外な一面に私はオロオロしながら杏梨に手を伸ばそうとしては引っ込める。


「う、上原さんあの……」

「ごめんなさい。言い方が悪かったわ」


膝を崩し、土下座をしそうな勢いで杏梨は頭を垂れる。

それに臆した私は焦って杏梨の肩を押し、頭をあげるように促した。

不安げな目で見つめてくる杏梨にチクリと胸が痛くなった。


「大丈夫です。……聞き取れてないのは事実だから。上原さんが不快に思うのは当然だよ」

「そうじゃなくてっ……!」


その言葉に杏梨はカッとなり、私の腕を掴んで声を張る。

反射的に私は身震いをしてしまった。

ささいな怯えに杏梨は気づき、ばつが悪そうに目を伏せるも向き合う姿勢は崩そうとしなかった。


「……私はあなたがやる気ないんだと思って。全然意見言わないし、聞いてないし。なんかすごくイライラしちゃって」


それは杏梨の正直な気持ちであり、飾りのないストレートなものだった。

鋭い刃はなよなよした私の心に強烈な一撃を与える。


「杏梨、だからそれが言いすぎ」

「……そんなの、わかってる」

(あぁ、そっか)


これがきっと杏梨の対人コンプレックスなのだろう。

物言いが強く、意図せずところで相手を傷つけてしまう。

悪意なんてものはなくて、ただ直球なだけ。

言葉の裏側に本心が隠れてしまうタイプなのかもしれないと、ようやく私は杏梨の顔を見ることが出来た。


「上原さんはみんなのこと考えてるからそう思ったんだよね? まとめ役って大変だよね?」

「あ、いや、私はあなたにイラついて責めちゃったから」

「……私、ずっと隠してたことがある。言っても理解されないと思って、誰にも言わなかった」


全体のバランスを考えた時、杏梨が指摘することは至極真っ当なことだ。

誰かが物を言わなくてはならないときがある。

そういった時に杏梨はすぐさま反応して口を開いてしまうだけのことであった。