彼にとって野乃花はかわいい存在で、大切にしたいと思っていた。

いじってしまうのは彼の愛情であったが、それを野乃花は理解できなかった。

言語化できなかったとはいえ、その気質は異常ととらえられてしまった。


「武藤さんには、オレってどう見える?」

「私は……」


私も彼も、成長過程。

人との距離感をはかりながら生きているだけなのだろう。

みんな同じという感覚をまだ持つことが出来ないだけ。

背伸びをする時期だった。


「鈴木くんはむやみに人を傷つけない。昔はやり方がわからなかっただけ」


少しずつ学んでいった姿を誰が否定できようか?

それでも足りないと責めるのならば、私は彼の盾になりたい。


「今の鈴木くんは痛みのわかる優しい人。ちょっとだけ愛情表現が強いだけだと思う。……私はそんな鈴木くんがいい」

「……うん、ありがとう」

(きれい……)


今まで見た中で一番キレイな笑顔だった。

私にだけ向けられるたくさんの好きが込められた微笑みだ。


「オレは武藤さんに受け入れてもらえればそれでいい」


一等級な笑顔をみるとこそばゆい。

見つめていたいのに、見つめ返されるとなぜか目を反らしたくなる感覚だ。


「大好きを否定されるのは辛いからね。オレは武藤さんが大好きなんだ」


傷を秘めたくしゃりとした笑みはほどよく甘い。

かわいらしい愛情は凝り固まった私の緊張をほどいていった。


「だからオレの大事な武藤さんに優しくしてあげてね」

(本当にこの人はずるい)


悔しくなって彼の肩に顔を埋める。

こんな至近距離は怖くてたまらなかったはずなのに、今はどうしてか彼の温もりが恋しい。

彼のわかりやすい愛情表現だからこの気持ちに気づけた。

逃げたくないと前向きにさせてくれる魔法のようだ。

怖がりな私にはこれくらい強烈にぶつけてくる愛情が愛おしいのだろう。


「大好きだよ、鈴木くん」

「うん」


ぎゅううっと力いっぱい抱きしめられる。

やっぱり痛かったが、負けじと私も彼を抱きしめ返してみる。

彼に甘やかされるとこれまで意地を張ってきたことがおかしくなり、くすりと笑ってしまうのだった。


「さて、これからどうしたい?」


じゃれ合うのはここまで、と彼は私の背中を叩いたあと肩を押す。