噛んでみたはよいものの、だんだんと恥ずかしくなったのか彼は耳まで真っ赤にして顔を隠してしまう。

想像を具現化してしまい、戸惑いもあるようで唸りだす。


「ああぁー! やってしまった……」

「鈴木くん、噛むの好きなんだね」

「ごめん。でも武藤さん見てると噛みつきたくなっちゃった」


指の隙間からちらりとのぞかれ、私は致し方なく肩を落とす。

首元を見ることが出来ないので指先で触れてみる。


「これ、目立っちゃうよ。うーん、どうやって隠そうかな」


彼には攻撃したい意図はなく、あくまで愛情表現の一種だ。

かわいいものをみると泣かせたくなってしまう衝動。

高校生には少し理解しがたい感情である。

それが今まで人を傷つける結果になっていたため、彼は本音を殺すようになってしまった。


「ああ……ごめん。そこまで考えてなかった」


落ち込む彼がほんの少しかわいらしい。

彼のように更に泣かせたいという感情にはならないが、甘やかしたいと思ってしまう。


「別にいいよ。これが鈴木くんだから」


目線よりも少し高い位置にある赤褐色の髪を撫でる。


「鈴木くんの愛情表現ってわかればかわいいよ」

「……武藤さんも、同じだよ」


目を潤ませて、柔く微笑んで抱きしめられる。

温泉に入った直後のほかほかした温もりに包まれ、私の涙腺は簡単に緩んでしまう。


「オレは武藤さんが聞き取り苦手でもかわいいし、それも含めて武藤さんが好きなんだ」


目尻にたまった涙を親指で拭われ、大きな手で両頬を包まれる。

泣きじゃくった顔をいたわるように優しく触れてきた。

その繊細さは彼の愛情の大きさを表しているようで、愛おしく感じた。


「武藤さんは我慢しすぎだよ。もう少し自分の気持ち言ってもいいんじゃない?」

「私が逃げるようになったのは、背を向けられるのが悲しかったから」


わからないのなら正直に言ってほしかった。

理解したふりの顔をして安心させておいて、最後は背を向ける。

そんなことの繰り返しだ。

私に出来る努力は精一杯やろう。

それを超えて責められれば打ちのめされる。

逃げることを続けていたらいつのまにか人との距離感もわからなくなった。

失敗に対しての恐れが負のスパイラルをうんだ。