やさしさが降り積もれば降り積もるほど、涙もろくなる。

弱虫な私が背伸びしてしまうくらいに、彼は魅力的で愛しかった。


「鈴木くんくらいだよ。普通はイライラするんだよ?」

「と、言われても……オレ、普通じゃないからね。だって武藤さんが可愛くて可愛くてたまらない」


ニヤリと上がっていく口角を見る。

先ほどまでときめきが大きかったというのに、一瞬にして背筋が震えるほどにぞわっとした。


「はっきり言って、今はめちゃくちゃ可愛くてゾクゾクしてるくらい」

「……ゾクゾク?」

「だって弱音吐いてくれる武藤さんが見られるのも、抱きしめることが出来るのもオレの特権でしょ?」


柔和に細められる目。

一見、穏やかでやさしい目をいているがその正体を私は知っている。


「甘えられて嬉しいに決まってる」


これは捕食者の目なのだから。


「ちょっ、恥ずかしいから」


誰にもこの会話を聞かれていないからこそ、私は唾を飲み込む。


「……恥ずかしいけど、間違ってない」

「武藤さんかわいいっ!」


その抱擁は少し力加減がおかしくて。

強く抱きしめられると内臓が飛び出しそうなほど。


「本当に、痛いよ! 潰れちゃう!」


息をするのも精一杯。

酸素をとりこもうと大きく口を開いていると彼の目がぎらつきだした。


「ごめん、オレももう一つ打ち明けるね。ずっと我慢してた」


それは新しい彼と言っても過言ではない。

突然、首に強烈な熱さが襲い掛かる。


「……いたい」

(地味に痛い。何これ。 首? 肩? 噛まれて……)


ペロリと舌なめずりをする彼に私は小さく悲鳴をあげた。


「ええっ!?」


人より少し加虐的な妄想が好きな彼。

その妄想は決して現実にはしないが……私が弱音を吐いたことで好奇心が疼いたようだ。

彼に噛み跡をつけられて、私はビクッと震えるばかりだった。