正しく言葉が拾えない世界で、キミは怖かった

拓海の言葉に私の肩が跳ねる。

声が大きすぎて言葉としてではなく、単語だけを聞き取ってしまう。

「当たり前じゃん」

”友達”、”彼女”と聞き取り、当たり前だと答える彼に赤面する。

きっと彼は私が大事だと即答したのだろう。

調子よく理解してしまい、私は彼の気持ちに困惑するばかり。


(彼女って、本心?)

「余裕ある奴はいいよなぁ。 ぐすん」

「つーか、お前約束してた人いただろ? なんかアプリで仲良くなったとか言ってたじゃん」

「顔写真送ったらーーーーーた」

「バカかよ。で、どんなーーーーたわけ?」


会話が早い。

まるでテレビで見る漫才のようだ。

拓海がスマートフォンの画面を見せてそれに彼が反応している。

会話についていけなくなっていた私は顔を上げるだけで精一杯。


「ーーーーーにはどう思う?」

「……」

「武藤さん?」


ハッとし、青ざめて彼の顔を見る。


「あ……ごめんなさい。えっと……」


会話がわからない。

いつのまにか私に会話が投げられていたようで、私は流れがわからず視線をさ迷わせる。

こうして私は話の流れを止めてしまう。

だんだんとそれは人を不愉快にさせ、距離が出来ていく。

人と交流することが怖くなり、私は自ら一人になるようになった。

彼にも嫌われてしまうだろうか。

そんなネガティブな妄想ばかりが脳裏をよぎる。

それを打ち砕くように彼がくしゃっと優しく笑うものだから、感情がかき乱された。


「これ拓海の私服写真なんだけど。どう思う? 参考までに教えてほしいな」

優しくされると弱音を吐いてしまいそうになる。

悲劇な顔をしているとなお嫌われる。

繊細な部分に触れられて、私は口角をあげることで誤魔化していた。

写真を見て、私は決まったようにへらッと笑った。


「いいんじゃないかな?」

「武藤さんわかってるぅ!」


喜びに声をあげる拓海と、眉間に皺をよせて写真を凝視する彼。

何か反応を間違えてしまっただろうかと思い悩む。

しばらくして彼はため息をつき、私の腕を掴んできた。


「きゃっ!?」

「わりぃ、拓海。オレたち帰るわ」

「うわ、めっちゃむかつく。帰れ帰れ!」


感情のジェットコースターだ。

彼の考えがまったく読めない。

早く別れなくてはという理性と、彼に嫌われたくないという感情が入り混じり、私は目を回していた。