改善することのない私に、やがて円香は疲れてしまい、苛立ちを隠せなくなった。

どんなに長い付き合いでも、相手への配慮が出来なくなれば関係性とは崩れてしまうものだ。


アルバイトでは指示を一回で理解出来ない。

何度も聞き返すとイライラされる。

失敗しないように練習しても、聞き取りが出来なければなんの意味もなかった。

「何度も聞き直したり、聞きながら何かを一緒にすることの出来ない私って、周りからどんな目で見られると思う?」

メモをとっても、メモをとることと聞くことの両立が出来ない。

後から追記しようと思ってもすでに記憶から抜け落ちている。

周りからすると、厄介な人と接しなくてはならないわけで、疲れるのだろう。

自罰的になればなるほど、私の目の前は真っ暗になっていく。


「こんな発言も、みんな構ってちゃん、被害者面って言うんでしょ?」


どうすれば誰にも叩かれることなく、普通に学校に行って、働くことが出来て、会話をするのことが出来るのか。

そう考えれば考えるほど、私は生きるのに向いていない。


「みんなそれぞれ色んなものを抱えてるんだからって」


そんな平等説は私を苦しめる。

個性とは長けていてこそ輝くもので、劣るものは不和を呼ぶ。


「叩かれるなら、言っても言わなくても同じだよね? 結局、みんないなくなるでしょ?」


この痛々しい状態にもやさしくしてくれるのが彼だ。


「オレは離れない。武藤さんの前からいなくならないよ?」

「……うん。ありがとう、鈴木くん」


だからこそ怖いなんて……そんな贅沢な悩みは私に不釣り合い。

卑屈の塊はどうすれば治るのか。

少しずつ前を向いて生きれるようになった気がしていたが、足りないものが補えたわけではない。

自分が嫌いという気持ちはどうすれば消えてくれるのかわからなかった。


「……鈴木くん?」


ぎゅっと抱きしめられ、頭を彼の胸に寄せられる。


「時間はかかるよ。今は無理でも、いつか信じて」


目の前がチカチカと光る。


「会話だけが全部じゃないから。オレは武藤さんの反応とか、全部引っ括めて好きだと思ってるから」


その言葉が私の救いとなる。