注文が聞き取れない。

常連さんの顔を覚えない。

同時進行で作業が出来ない。

学校生活では気づかなかった自分の不出来を目の当たりにする。

アルバイトの経験により、自分がいかに日常生活で周りに迷惑をかけてきたことを理解した。

恐怖は私の行動を狭めていく。


「お客さんからのクレームが多いのよね。注文の聞き返しが多いって」


まわりの苛立ちも募ってしまう。

一度破綻した関係性は修復が不可能なほどだった。


「教えてもすぐに忘れちゃうし。メモとってて何で覚えないの? 覚える努力しないわけ?」

「……すみません」

「ちゃんとしてよね。 給料もらってるんだからさ」


お金という責任があると、何も言えなかった。


(私が……悪いんだ)


人が怖くてたまらない。

誰かに迷惑をかけて生きることが苦しい。

人より劣る自分が情けない。

亀裂のはいった心を立て直す勇気もなく、逃げ癖のついた私はアルバイトを辞めた。


すで心が折れていた。

それでも働かなくてはと私は盲目になって次のアルバイトを探す。

社会不適合者の私が出来ることはなんだろう。

そんなことを考えながら、少ない選択肢のなかで道をつくる。

カフェ、スーパーと働きましたがうまくいかなくて、私は絶望に公園のベンチに座り込む。


(もう接客はやだなぁ……)


涙に視界が揺れた。

そんな悲嘆に暮れていた私の前に現れたのは、夜に浮かぶ太陽だった。


鈴木 隼斗くん。

クラスで一等に眩しい人気者の男の子だった。

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大粒の涙が目から零れ落ちる。

はじめて自分が内側にためていた苦しみを口にした。

彼を前にして私は浅い呼吸を繰り返して泣きじゃくった。


「今は学生で大きな支障はないかもしれない。 でも社会に出たら? いやでも人と会話が必要になったら?」


一度溢れ出したものは塞き止めることが出来ない。

そんなことが出来るほど私は器用ではなかった。

脳裏に過るは円香やアルバイト仲間のこと。

円香は部活内で不穏な空気を作っていた私を庇ってくれていた。

だがそれは逆効果となっていたようで、正義感の強い彼女が叩かれるようになってしまう。