正しく言葉が拾えない世界で、キミは怖かった

私もアルバイトをはじめて時間はそれなりに経過しており、すっかり新人ではなくなっていた。

時間の経過に見合わぬ不慣れな状態で、私は周りの足を引っ張っていた。


ーーパリーン!!


焦りはミスを呼び、お盆にのせていた料理を落としてしまう始末だった。


「あ……た、大変失礼しました!」


血の気が引いていく。


(どうしよう、どうしよう)

「注文お願いしまーす」

「あ、はい!」


視界がかすんでいく。

背中がゾワゾワして気持ち悪かった。

とにかく目の前のことをこなそうと必死になり、私はまわりが見えなくなっていた。


(次、何したらいいかな。あ……料理、出さなきゃ)


時間の感覚がなくなるほどに忙しなかった。

息をつくまもないくらいに仕事をこなそうとして、頭がボーっとし始めていた。


「ねぇ、シーザーサラダがまだ来ないのだけど」

「あ、えっと……もう一度お伺いしてもよろしいですか?」

「シーザーサラダをーー」


お客さんが注文しているのだろう。

一言一句聞き取れない状態で私は笑顔をはりつけていた。


「シーザーサラダをおひとつですね。かしこまりました。ご注文は以上で……」

「はい? 注文じゃなくて、頼んだのに来ないって言ってるの! ちゃんと聞いてましたか!?」

「あっ……も、申し訳ございません!」


声を荒げたお客さんに対し、委縮して次の行動に移れない。


「お客さま、大変失礼しました。すぐにお持ちいたします」


志穂里が状況を察知してすぐにフォローに入ってくれた。

怒れるお客さんの対応をし、私は厨房へと下がる。

対応を終えて厨房へと戻ってきた志穂里のもとへ駆けよった。


「あの、ありがとうございます」

「……水頼んだ人は私が対応しておいたから」

「あ……」


水が欲しいと注文を受けていたにも関わらず、完全に忘れていた。

青ざめる私に志穂里は不快ため息をつく。


「テーブル、片付けられてないからちゃんと回収しながら動いてね」

「……はい」


私は上手く立ちまわることが出来なかった。

周りがスムーズにこなすことでも、私はミスばかりで落ち込むことが多かった。

お客様からのクレームも多くなると、アルバイト仲間とも上手く連携がとれず。