結局、円香とは仲直りが出来ずに中学を卒業した。

地元の人に見られることが嫌で、家から少し離れたところにある高校に通うことを決める。

自立のため、十六歳になってすぐアルバイトをはじめた。

はじめてのバイトはイタリアンレストランだった。


「注文のとり方はこうね。大丈夫そう?」

「は、はい。やってみます」


メモをとり、伝票の取り方など細かに教わっていく。

アルバイトの先輩となったのは大学生の秋谷 志穂里は大人っぽいクールな顔立ちの女性だ。

几帳面な性格をしており、まわりをよく観察するテキパキとした姿に憧れた。


「注文いいですか?」


少しずつ慣れていこうと積極的にオーダーやレジに取り組む。

最初は志穂里も面倒見がよかったが、混み合ってくると私も一人で行動するようになっていた。

メニューをみながら注文してくるお客さんに追いつこうと必死になってメモをとった。


「復唱します。シーザーサラダ、カルボナーラ、あさりとキノコのコンソメパスタ……」

「違うわよー。 あさりとキノコじゃなくて、エビとキノコのクリームパスタよ」

「も、申し訳ございません」


正直、メモが追いついておらず簡素なものとなっていた。

手が追い付くことを最優先としたメモは後から何を書いたかわからず、困惑しながら復唱した。

だが聞き取れた内容と異なることもあり、目の前がぐるぐるして周りが見えなくなっていく。


(何度やっても注文が慣れない……。復唱しても聞き間違えてることが多いな)


機械操作の同時進行が難しく、ミスが続いた。


「お待たせしました。ミモザサラダと……」

「頼んでないわよ?」

「し、失礼しました!」


慌ただしく厨房へと戻り、伝票を確認する。


(ミモザサラダは……あれ? 席はあってる。注文打ち間違えたんだ)


「すみませーん。お水いただけますかー?」


客席から声をかけられ、私は伝票を握りしめて振り返る。


「少々お待ちくださーい」


そうしている間にもどんどん運ばなくてはならない料理が並んでいく。

レジにも人が並んでおり、志穂里が対応していた。

他にもアルバイトの人はいたが、混雑時に私一人に構っていられるほど余裕はない。