部活が再開しても円香の孤立はそのままだった。


「円香ちゃん、あの……」


部活のあとに私は部室でトランペットを磨く円香に声をかける。

外は雨が降っており、風がカーテンに叩きつけられていた。

円香はぴたっと動きをとめ、こちらを見ることなく口を開いた。


「……元はと言えばひなのせいだよ」

「え?」


顔をあげた円香の燃えるような目線と交差する。

私は反射的に口角をあげ、ひくひくさせながら苦笑いをしていた。


「ひな、何も気づいてくれなかったね。ひなのこと庇えば庇うほどアタシが悪者にされてさ」


正義感の強い円香からすると、先輩たちに悪く言われるのが見過ごせなかったのだろう。

歯車がかみ合わず、崩れる時はあっという間だった。


「先輩たちの言う通りだよ! もっと話を聞いて、ちゃんと先輩と上手くやってよ!」

「円香ちゃ……」

「幼なじみだからってアタシが怒られるのおかしくない!? ひながしっかりしてくれたらこんなことにはならないんだよ!?」

「ごめっ……」

「……なんか疲れた。もう、ひなと話したくない」


恐怖と、悲しみ。

ひときわ大きな鼓動が私の身体を震わせた。

呼吸がとまってしまったような錯覚に陥る。


「自分のことばかりで、聞くの疲れた。それにアタシが悪く言われるんだよ」

「私は……」


その先の言葉が出てこない。

保守的でだんまりがお得意な私を円香は一番知っている。

見透かすような目が怖かった。


「ひなは好きにやればいいよ。でももう二度と庇わないから」


それは我慢し続けた円香からの決別の言葉。


「……面倒見る役、もう辞めるから」


トランペットを手に円香は教室から飛び出した。

横を通り過ぎる時、円香の涙をみて私は思い知る。

これは私が引き起こした悲劇だと。

追いかける勇気がなかった。

どうしたらいいか、何も分からなくて。

その場にしゃがみこみ、雨音にまぎれてすすり泣いた。


ただ大切な友人を失った。

それだけは理解できた。

言葉が聞き取れず、顔も覚えられないことから不穏を招く。

そして卑屈さが悲劇に変わる。

こうして卑屈な性格はどんどん悪化して……。

顔をあげて歩くことの出来なくなった私はクラリネットを手放した。

それからすぐに部活に行くことが出来なくなり、気配を押し殺して退部した。

部活に所属をすることをやめたことで、先輩後輩のしがらみから強制的に解放されたのだった。