――私はすぐに人の顔を覚えられない。
面と向き合い、十分な会話したことない人は覚えてるまでに時間がかかる特性があった。
後日、校内を歩いていると以前ぶつかった生徒と出会う。
だがそれは私の勘違いで、まったくの無関係の生徒であった。
(この前ぶつかった人だよね……?)
「あの、先日はすみませんでした!」
深々と頭を下げると相手は立ち止まり、困惑の色をみせた。
「え?」
「……え?」
相手の反応をみて、私は謝るべき人を間違えたのだと気づく。
「えっと、ごめんね。 誰? 何かあったかな?」
(人違い……だ)
「す、すみません。 間違えました」
「大丈夫だよー。 気にしないでねー」
血の気が失せていく。
それがきっかけとなり、私はさらに臆病となってしまった。
人の顔がなかなか覚えられないことが歪となって、大きくなっていく……。
それは部活動の時間を終え、帰り際のことだった。
心美つてに部長に呼ばれ、静かな音楽室での出来事だ。
「なんで呼ばれたかわかる? 武藤さん」
腕組をした部長と副部長、そしてパートリーダーの心美がまわりを囲む。
心美は目を反らし、部長と副部長は険しい表情をしている。
この呼び出しが衝突事故に起因するとは想像もつかず、私は首を横に振った。
状況を理解しない私に部長の彩奈は額をおさえ、深くため息を吐く。
「少しね、自分は後輩ということを理解してほしいの」
「……チューバの佐藤さんが手を怪我したの。しばらく演奏は出来ない」
部長の言葉を心美が補足する。
「聞いたところによると、武藤さんとぶつかったとか。怒ってるわけではないみたいだけど、あれから謝りにも来ないって気にしてるわ」
そこまで説明を受け、ようやく何が起きたかを把握した。
あの衝突事故に罪悪感はあれど、相手の顔をはっきりと覚えていなかった。
いざ勇気を出して謝罪すれば人違い……。
それから恐怖が上回り、事を曖昧にしていた。
まさか怪我してたとまでは思わず、私は焦るばかり。
「すみません、すぐ謝りに」
「いいよ、あの子も怒ってないし。ただ先輩への配慮に欠けてるからその辺意識してね」
私に出来ることは謝ることだけだ。
とっさの言葉であったが、それを彩奈は一刀両断する。
怖気づいた私は俯き、喉の奥に詰まった違和感に戸惑っていた。
「あと、廊下で先輩にすれ違ったら挨拶すること。これ、当たり前だからね」
「すみませんでした……」
目に見えて落ち込む私に彩奈もばつが悪いのだろう。
「部長だから言わなきゃいかない私の身にもなってね。頼むよ」
(そうだよね。私が……)
私が圧倒的に悪いのだ。
怪我をして、それが同じ部活の仲間だった。
同じ目標をもって切磋琢磨するはずなのに、謝罪の言葉一つない。
罪の意識にのまれる私だったが、鬱蒼とした状態は更なる事態を引き起こす。
面と向き合い、十分な会話したことない人は覚えてるまでに時間がかかる特性があった。
後日、校内を歩いていると以前ぶつかった生徒と出会う。
だがそれは私の勘違いで、まったくの無関係の生徒であった。
(この前ぶつかった人だよね……?)
「あの、先日はすみませんでした!」
深々と頭を下げると相手は立ち止まり、困惑の色をみせた。
「え?」
「……え?」
相手の反応をみて、私は謝るべき人を間違えたのだと気づく。
「えっと、ごめんね。 誰? 何かあったかな?」
(人違い……だ)
「す、すみません。 間違えました」
「大丈夫だよー。 気にしないでねー」
血の気が失せていく。
それがきっかけとなり、私はさらに臆病となってしまった。
人の顔がなかなか覚えられないことが歪となって、大きくなっていく……。
それは部活動の時間を終え、帰り際のことだった。
心美つてに部長に呼ばれ、静かな音楽室での出来事だ。
「なんで呼ばれたかわかる? 武藤さん」
腕組をした部長と副部長、そしてパートリーダーの心美がまわりを囲む。
心美は目を反らし、部長と副部長は険しい表情をしている。
この呼び出しが衝突事故に起因するとは想像もつかず、私は首を横に振った。
状況を理解しない私に部長の彩奈は額をおさえ、深くため息を吐く。
「少しね、自分は後輩ということを理解してほしいの」
「……チューバの佐藤さんが手を怪我したの。しばらく演奏は出来ない」
部長の言葉を心美が補足する。
「聞いたところによると、武藤さんとぶつかったとか。怒ってるわけではないみたいだけど、あれから謝りにも来ないって気にしてるわ」
そこまで説明を受け、ようやく何が起きたかを把握した。
あの衝突事故に罪悪感はあれど、相手の顔をはっきりと覚えていなかった。
いざ勇気を出して謝罪すれば人違い……。
それから恐怖が上回り、事を曖昧にしていた。
まさか怪我してたとまでは思わず、私は焦るばかり。
「すみません、すぐ謝りに」
「いいよ、あの子も怒ってないし。ただ先輩への配慮に欠けてるからその辺意識してね」
私に出来ることは謝ることだけだ。
とっさの言葉であったが、それを彩奈は一刀両断する。
怖気づいた私は俯き、喉の奥に詰まった違和感に戸惑っていた。
「あと、廊下で先輩にすれ違ったら挨拶すること。これ、当たり前だからね」
「すみませんでした……」
目に見えて落ち込む私に彩奈もばつが悪いのだろう。
「部長だから言わなきゃいかない私の身にもなってね。頼むよ」
(そうだよね。私が……)
私が圧倒的に悪いのだ。
怪我をして、それが同じ部活の仲間だった。
同じ目標をもって切磋琢磨するはずなのに、謝罪の言葉一つない。
罪の意識にのまれる私だったが、鬱蒼とした状態は更なる事態を引き起こす。