正しく言葉が拾えない世界で、キミは怖かった

それは人数の多いマンモス中学校でのこと。

新しい門出にドキドキしながら校門を潜り抜け、事前に連絡を受けていたクラスへと向かう。

途中、張り紙でもクラス分けが掲示されていたので記念に確認しようとする。

だが浮足立つのは他の人も同じことで、背の低い私は人に埋もれていた。


(諦めよう……)

がっくりと肩を落とし、トボトボ歩いていると突然背中に衝撃が走る。


「ひなーっ! おっはよー!」

「円香ちゃん!」


ツインテールに猫のような吊り目。

八重歯を見せて笑う元気っこな姿は一人でおどおどする私を勇気づける。

男子にも物怖じしない強気な女の子。

宮石 円香は小学校から同じクラスの友人だった。


「いやー、中学に入っても同じクラスメイトになったねぇ。すごくない?」

「ねー。小一の時からだから七年目だよ」

「卒業まで一緒だといいね!」


円香とは6年間同じクラスメイトとなり、高学年になって仲良くなった。

明るく、正義感の強い子で大好きな友達だった。

そんな私たちは示し合わせたかのように加入する部活動も同じになり、お互いに笑いあった。

見学を終え、正式に入部をすることとなり楽器を選ぶ。


「ひなはクラリネットかぁ。手、小さいけど届く?」

「ギリギリなんとか。早く上手くなりたいなぁ」

「アタシは花形のトランペット! トロンボーンと悩んだけどね!」


私の手は同い年の女の子に比べて小さく細っこい。

頑張れば指が長くなるのではないかと期待を込め、クラリネットを手に取った。

黒色の上に銀色が映えて、少し大人になったような気分になった。

それから毎日それぞれのパートで練習をするようになる。


「はじめまして、パートリーダーの前田です」

「よろしくお願いします」


クラリネットは人数が少なく、二年生の前田 心美がパートリーダーを務めている。

髪の毛を一つにくくったおっとりとした顔立ちの先輩だ。


「部活のルール、教えておくね。うちは結構、礼儀に厳しいから~」


そこで先輩への挨拶や部室の準備・後片付けといった部特有のルールを教わる。

私は必死になってメモをとっていくが、書く手が追い付かない。

だんだんと書くことに集中してしまい、途中で話の流れがわからなくなってしまった。