「さすがにそろそろ考えないとマズイかなぁ」

彼とは将来について話し合ったことがない。

明るくて人と器用にコミュニケーションをとる彼ならば何を選んでも問題ないだろう。

いつかそういった未来についても話せるようになりたい。

会話をネックに思っていた私がこうも背伸びをして話をしたいと思うようになるとは想定外のことだった。


「上原はやりたいこと決まってるの?」

「うん。英語の勉強がしたいなと思ってる」


杏梨は特進クラスに引けを取らない程に成績上位者だ。

いつも堂々としており、男女問わずに人の輪に飛び込める強気な一面もある。

怯えてばかりの私にはない勇ましさには憧れるものだ。


「輸入雑貨とかが好きだから、いつか自分で仕入れてお店やってみたいんだ」

将来の夢を語る姿はキラキラしている。

可能性に満ちた世界が見えているのだろうか。

私と杏梨では見えている世界が違う。

未来に物怖じする必要がない。

それは私が欲しくてたまらない強さであった。


「楽しそうでいいな。上原、センスあるしいいと思う。応援してる」

「あ、ありがとう」

(やっぱり……)


杏梨は彼と話す時だけ、言葉に詰まりやすい。

耳まで真っ赤にして目を反らす癖がある。

わかりやすいそれを私はどう見ればいいのかわからない。

彼を異性として意識する目だ。

生きざまがこうも違うのに、好きになる人は同じなことは不思議なもの。

もし、意思表明をされたら私はどうするのだろう。


諦めたくない。譲りたくない。


そう思っているくせに弱気な気持ちもあるのはなぜだろうと、二人の会話をする姿が遠く見えた。


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「湯豆腐うまーっ!」

「たまらんな。うむ」

場所は変わり、昼食は多数決で選んだ湯豆腐専門店へとやってきた。

熱さを忘れて拓海が食し、ほとんど口を開かない史也も満足そうに頷いていた。


「この店当たりー。さすが杏梨が調べただけあるね」

「よかったー。美味しいもの食べるのも旅行の醍醐味よね」

(はふはふ。うん、おいしい)


莉央と杏梨がキャッキャッと盛り上がっているなか、私は夢中になって湯豆腐を頬張っていた。

猫舌のため、なかなか喉に通すことが出来ずに舌の上で転がすばかり。


(な、なんだか熱い視線が?)

向かい側から視線を感じ、ちらっと除くとすっかり恍惚の境地に至る彼がいた。

うずうずと身体を揺らしている姿をみると、妙に危機感を覚える。

絶対に彼に捕まってはいけない。

生物としての本能が彼から目を反らすことを選んでいた。