彼は人気者で、おそらく好意を抱いていた女子も多かっただろう。

いざそれを目の当たりにすると気まずさに俯くばかりだった。


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京都に到着し、さっそく班別行動一日目だ。

彼が行きたいと口にした宇治神社で一緒におみくじを引く。

一斉に開いた結果にそれぞれ一喜一憂した。


「やった、大吉だ」

至福の笑みを浮かべる彼。

彼が嬉しそうにしていると私も嬉しくなってしまう。

私は「小吉」とリアクションに難しい結果となり、とりあえずおみくじを結ぶことにした。

(彼と引き合わせてくれてありがとうございます。欲を言えばもっと彼と会話できるようになりたいです)

出会えただけで充分だったが、私は欲深い。

もっと彼といろんなことを話して知っていきたいと願ってしまうほどに、好きになっていた。


「欲しかったのってそのうさぎ?」

「うん。小さくてかわいい」

この神社のおみくじは趣向が凝らされており、兎の置物の中におみくじが入っている。

どうやら彼はこの兎の置物が欲しかったようで、手のひらにのる小さな兎を見て満悦していた。

可愛い物には目がないことを明かしてくれたが、中でもうさぎは特別かわいいようだ。

ちなみに彼が飼っているシェパードの「さぎうさ」の名前もうさぎが由来らしい。

うさぎを飼うはずだったのに、いざ母親が家に連れてきたのがシェパード。

ショックを受けた彼は腹いせにと「詐欺うさぎ」と呼び、それが結果として「さぎうさ」という名前になった。

さぎうさに罪はないのにかわいそうだと、こればかりは彼の味方になれなかった。


「鈴木くんたち、お参りした?」

杏梨もおみくじを引いたようで、それを結びにやってくる。

破らないようにと丁寧に折りたたみ、几帳面に結びあげる。


「うん、さっきしたよ」

「ここって学業成就・受験試験合格の神様みたい。受験生の私たちにはピッタリなところだね」


”受験生”というワードに反応した彼はぎこちない動きで目を反らす。

それに気づいた杏梨がじっと彼を見て、ソワソワしながら口を開く。


「二人は進路って決まってるの?」

気になることは聞かずにはいられない。

真面目で探求心旺盛な杏梨にとって、進路を考えることは至極当然のことであった。

私はその問いにまっとうに答えられるだけの状況にない。

お金を貯めて高校卒業と同時に家を出る。

それだけが私の目標であり、それは進学か就職かいずれかで達成するまでは結論が出ていない。

聞き取りが苦手な私にとって、コンプレックスが最小限に抑えられる道を模索している最中だった。