正しく言葉が拾えない世界で、キミは怖かった

ドタバタしながら時間が過ぎていき、あっという間に修学旅行当日。

新幹線で京都へ向かう中、私は通路側、莉央が真ん中で杏梨が窓際に座る。


「武藤ちゃん、これ食べない?」


スナック菓子を開け、莉央がパクパクと口の中に放り込みながら空いた手で勧めてくる。


「い、いただきます」

それを一つ手に取り、ぱくりと一口。

おいしいはずのスナック菓子は緊張で味がわからない。

無心で口を動かし、なんとかして味わおうともごもごした。


「武藤ちゃんさー。なんで隼斗と付き合ってるの?」

「ええっ?」

何故と問われても明確な答えをもっていないため、回答に詰まる。


「や、優しいから?」

「疑問形なんだ……」

無理くりひねり出した理由に莉央はオーバーリアクションで苦笑い。

ずっと窓から外を眺める杏梨がちらりと視線だけをこちらに向けていた。


「いや、武藤ちゃん騙されてるわー。隼斗ってそこまで優しくないよ?」

肩を引き寄せられ、頭のてっぺんをわしゃわしゃと撫でられる。

何故こうも長身の人は私の頭に狙いをつけて撫でまわすのか。

そこまで撫で心地は良くないだろうにと、たじろぎながら眺めていた。


「割と扱い雑というか……」

「まっつー、余計なこと言うなよ」

後ろの座席に腰かけていた男子三人組の通路側に腰かける彼。

地獄耳なのか、目的地に突き進む新幹線で立ち上がり座席の背もたれに両腕を乗せる。


「ホントのことじゃん。料理下手だし」

「オレは武藤さんには優しい! それに料理下手なのはまっつーもだから!」


それは以前、特進クラスと合同で行われた調理実習での出来事に起因する。

彼は莉央と杏梨と同班で、クッキーを焼いて焦がしたメンバーだった。


「惚気けないでよ! めっちゃムカつくー!」

挟まれてしまったと身を小さくする。

口喧嘩はよくするものの、彼らは仲が良い。

軽口を叩ける仲はほんの少し羨ましいと思ってしまった。


「こら、そこ喧嘩しない」

「「ごめんなさい」」

騒ぐ二人に杏梨が注意する。

まるで事前打ち合わせをしていたかのように息をそろえて二人は謝罪した。

あっさりと非を認めるものだから逆に杏梨が尻込みしてしまう。


「だ、大丈夫。他のお客さんに迷惑にならない程度にね」

杏梨がちらりと彼に目を向けると、彼はにこりと微笑み返す。

途端にぷいっと目を反らし、紅潮する頬を誤魔化そうと再び外を眺め出していた。