正しく言葉が拾えない世界で、キミは怖かった

「行きたいところの意見出していこう!」

京都は観光スポットが多く、候補が豊富だ。

高校生としての一大イベント、修学旅行への期待値は高く、特に拓海が目を輝かせて意見を出していった。

「俺は金閣寺とーー……」

「アタシはーー……」

教室内は同じように意見が飛び交っており、私の耳は四方八方に飛び交う声を拾う。

だがそれがどこからのものなのか。

自分の属する班の声はあふれる音に紛れて聞き取れない。

話し合いについていくことの出来ない私は口角をあげて、その場の空気と化す。


「オレは宇治神社」

「宇治神社?」

「見返り兎の置物が欲しくって」

「い、いいんじゃない?」


順調に話が進んでるのだろう。


(あまり聞き取れてないけど、大丈夫だよね?)

どうせ会話についていくことが出来ない。

聞き取れないことで空気を壊すくらいならば私は何も言わない。

最初はやさしくても段々と空気が不穏になる感覚。

白けた状況を作ってしまうのは胃がキリキリと痛むものだった。


「……おーい、武藤ちゃん?」

自己防衛で口角をあげる癖があった。

一つのことで頭がいっぱいになり、笑うことが私の精一杯だった。


「は、はいっ!」

莉央に声をかけられても気づけず、顔の前で手を振られてようやく反応が出来た。

冷汗が背中を伝う。


「武藤さんはーーーーーーでーーーーの……」

(どうしよう……)


何一つ単語が聞き取れない。

通じていないと思われることが怖い。

根付いた恐怖心は膨張していき、私を乱す。

おそらくどこに行きたいのかを聞かれたのだろう。


(違ったら?)

会話が怖い。

品定めをされている気分だ。

聞き直すことは何度許される?

笑顔の裏に苛立ちはない?

ぐるぐるぐるぐる。

嫌な思考は人と交われない背中の丸い女の子を作る。


「と、特にはないので」

「えっと、どういう意味?」

「あっ……」

(聞き間違えたんだ)


杏梨の貼りついた笑みが怖い。

いや、杏梨は普通にしているだけだ。