正しく言葉が拾えない世界で、キミは怖かった

「ということで来月修学旅行だからな。今から班決めして、話し合いしろよー」

今日一日の最後の時間帯を使い、修学旅行の詳細を決めていく。

場所は京都で、判別行動を主としたものとなる。

教師の橋場は特別口出しをしないようで、教室の隅に椅子を運んで腕を組み、座り込んでしまう。

ざわつきだした教室で、一人の女子生徒が立ち上がり前に出た。


「じゃあ、班決めは男3女3でくじ引きねー」

癖のないナチュラルな声が教室の隅にまで響く。

チョコレート色の髪をボブにカットした正統派の明るく真面目な女の子。

クラス委員長の上原 杏梨だ。

キレイな猫のような顔立ちにすらりとした体格をしており、男女問わずに人気者だ。

いつもみんなの輪のなかにおり、てきぱきと行動する自立した人だと思っていた。


列に並び、教卓に置かれたくじの箱に手を突っ込む。

引いた紙を開くと太文字で「5」と書かれている。

黒板に描かれた班別の座席に向かって歩いていく。

くじの紙を凝視しながら歩いていたため、前方不注意の状態だった。

大きな背中に直撃し、鼻をさすって顔をあげる。

「鈴木くん!」

「大丈夫? 武藤さん、5班かな?」

鼻のてっぺんをチョンと触られ、はずかしさに顔を反らす。

小さくうなずいて、彼の反応を伺うようにじっと上目に見た。

対してじっと見つめ返されたかと思うと、彼は素早く近くにいた男子生徒のくじを奪い取る。

そして満面の笑みでくじの結果を見せてきた。


「やった、武藤さんと一緒だ」

「おいー! 俺のくじ……」

彼にくじを奪われた男子生徒がゆっくりとこちらを見て、言葉を収める。

そしてニヤリと口元を歪めながら、元々彼が持っていたくじの紙を取り去っていく


(鈴木くん、強引すぎる……)


普段、クラスの人気者として人徳のある彼。

加えて私と彼がお付き合いをしているのはクラスメイト全員が知っていた。

恋愛に寛容なクラスメイトに注目され、恥ずかしさとむずがゆさを味わった。


「あれ、まっつーもこの班?」

「うん。まさかの隼斗と同班~」

明るい髪を巻いた長身の女の子がやってくる。

彼と仲の良い女子生徒の一人で、彫りの深い顔立ちが印象的だ。

いわゆる見た目はギャルであり、長い手足は細身でありながらも筋肉質だった。

スポーツ大好きアクティブ女子でもある。

松丸 莉央、愛称「まっつー」と呼ばれるフレンドリーな性格。

特定のグループには属さず、どこにいても楽しそうに笑う姿は好感が持てた。