「ムリ。こんなにかわいいんだ。抱き潰したい。……なんかもう、小さいしぺちゃんこになりそう」

「全然わかんない」

「これがオレのおかしなところ。かわいいものを見ると加虐的な気持ちになる」

これを理解したいと思うのは、私も相当に侵食されているのだろう。

「反応がかわいすぎて、ついいじわるしたくなるんだ。だから武藤さんの色んな反応が見たい」

弱虫で卑屈な私でいいと言ってくれる彼を、愛してみたい。

「かわいくて抱きしめたくて、大好きなんだ」

「バカ……」

いや、きっともう恋をしている。

愛情を隠し切れない彼が好き。

人の中に混じろうと努力する彼が好き。

別になんだっていいのかもしれない。

こんな私を好きという彼は変人なのだから、私も変人でいい。

「私、鈴木くんが思ってるようなかわいい人間じゃない。きっと鈴木くんもすぐに嫌になる」

「そんなことない。オレは本当に武藤さんが好きだから」

(やっぱりずるい)

これだけのむき出しの感情をぶつけられて、動揺せずにはいられない。

嫌われる前に逃げてしまおうと癖のついた私が、欲張りになる。


「……嫌わないで」

嫌われたくない。

同じ感情を返してほしい。

隣に立ってもいいというのなら、がんばってみたい。

意気地なしの私は、彼に解かれて殻を破るんだ。


「鈴木くんが好き」

目が見開かれる。

チカチカする視界の中で私は委縮しそうな声を振り絞り、言葉に変える。


「いじわるでもいいよ。そうやって気持ちをぶつけてくれる鈴木くんが好き……」

欲求は止まらない。

気持ちを試すかのように唇に優しくなでるようなキスをされる。


「ーーこうやって、いじわるしたくなるんだよ?」

「……バカ」


下唇を甘噛みされると小さな容量から情報があふれ出す。

それを見てニタリと口角をあげ、頬を摘まんで楽しむ彼は意地悪い。

嫌がる人は嫌がる彼なりの愛情だ。


(いやなような、嫌じゃないような……)

自分の気持ちに整理がつくのはもう少し先のようだ。

再びキスをせまってくる彼に私は限界を超え、防衛反応で両手を前に突き出す。


こうして私たちははじめて想いが通じあったのだった。