正しく言葉が拾えない世界で、キミは怖かった

(こんなことしたら後戻り出来ないってわかってるのに)

私は自分が大嫌いだ。

だが彼を抱きしめるくらいには許されたい。

誰かを傷つけるしか能のない私にだって焦がれるものがあると知る。

(鈴木くんはやさしい。誰が何と言おうと、やさしくあろうとする鈴木くんが好き)

その心根を好きだと痛感する。

言葉はまだ重たくて、せめてもの勇気を形にしたいと手を伸ばし、彼の両頬に触れた。


「武藤さん?」

「鈴木くんはみんなに好かれてるから取り繕わなくても大丈夫だよ」

何を言えば彼は救われるのか。

言葉がわからない。

口にできたところでそれが届くかもわからない。

不安定なものだ。

安心させるには何をするのが良いのだろうと、悩みながらに彼の目を見た。


「きっとみんな、鈴木くんのことわかろうとしてくれるから」

「……オレは武藤さんに受け入れてもらいたい」

熱っぽい視線に胸が締め付けられる。

「オレにとってかわいくて大好きなのは武藤さんだから!」

それは唐突で、むき出しになった彼の癖。

覆い被さるように抱きしめ、圧迫感に私は酸素をもとめる鯉のように口をパクパクさせた。

「うっーー。いた……いたいよ!」

「そう、痛い。痛いはずだよ!」

相手を舐めるような目つき。

身体をぐっと引き寄せ、それが性的に欲していることを示すよう強く掴む。

じっとりと濡れた息遣いで彼は私の耳を食み、目を細めてうっとりとする。

額が重なり、間近に狼が顔を出したことに震えあがった。


「そうやってオレに振り回されて、困ってる武藤さんがかわいくてたまらない」

「それってどういうこと……」

「言葉のまま」

生理的ににじみ出た涙がまつ毛を濡らす。

防衛反応からポロポロ涙がこぼれ、それを餌とみた彼が唇をよせて掬い上げる。

まるで動物だ。

本能のままに雄の彼が私を愛撫するようなもの。