臆病な私が一歩踏み出したいと顔をあげる。

「鈴木くん。静かな場所でお話しよう」

まだ言葉を受け止められるかの不安はある。

何度も聞き返して彼を不快にさせてしまうかもしれない。

いつもは諦めて、傷つくだけで終わっていたそれを乗り越えたい。

彼の秘めた心を受け止めたいと、私はぐっと背伸びをして彼に訴えた。

「鈴木くんの声。ちゃんと言葉に変えたい」

「……うん」

曇っていた彼の表情が少しだけ明るくなる。

きっと私にも、彼にも、ずっと口に出せないことがあった。

口にしてもそれを理解してもらうのは難しいからと目をそむけたこと。

「オレもちゃんと伝えたい。本当の気持ち。もう隠して逃げない」

眩しいだけだと思っていた。

隙一つ見せない彼が崩れ出す。

それは”みんなと仲良しな鈴木くん”から離れ、影を濃くした男の子。

捕食者のぎらついた輝きが私を飲み込んだ。

「手を繋ぐね」

「あっ……」

体温を感じると恥ずかしさが強くなる。

くすぐったいような、妙に逃げたくなる悲鳴めいた叫び。

だけど、その温もりが嫌じゃない。

ただ、人と近い距離にいることに慣れていないだけ。

「むとっ……!」

おずおずと俯いて、私は彼の手を握りかえす。

彼は顔を真っ赤にして顔を反らし、ギクシャクとした動きで歩き出した。

言葉が必要な時と、そうでないとき。

私たちにはまだ、距離があるーー。


ーーーーーーーーーー


太陽が沈みだす夕暮れに、私たちの決まり場所となった公園に着く。

ベンチに座ると彼が「ちょっと待ってて」と言って走り去ってしまう。

この先、彼とどう話すかで頭がいっぱいだった私は背筋を伸ばしてベンチに座って待つ。

「ごめん、お待たせ。はい、これ」

差し出されたのは小さなペットボトルのホット飲料。

「ミルクティー……」

「前、動物園で飲んでたから」

「お金を」

「いいよ。気にしないで」

「……ありがとう」

私ばかりもらってるなと、ほんの少し気後れする。

スムーズなやさしさは手慣れてるなと思う反面、彼が努力して身に着けた気づかいだと知る。