どう考えても会話が歪だというのに、ぶれることなく彼は笑顔で愛でてきた。

人当たりの良い人ではあるが、特別誰かに執着を見せなかった。

のらりくらりとかわす人気者のテンプレートのような彼がはじめて見せた恋愛事情に周りは衝撃を受けていた。


「鈴木くん! なんで武藤さんと……」


躍起になったクラスの女子が彼に声をかけたところでチャイムが鳴る。

にっこりと笑って女子の追及をかわすと、彼は再び私に目を向けた。


「チャイム鳴っちゃった。またあとでね、武藤さん」


立ち上がると彼の長身がやけに目立つ。

夕日のような赤色は情熱的で、まるで私とは正反対の眩しさだ。


「……バカ」


かろうじて会話が成立したが、いつまでもまともなコミュニケーションはとれないだろう。

誰にでもやさしい穏やかな彼にまで不審な目で見られる未来を思うと、ずっしりと心が重くなった。


ーーーーーー


授業が終わって、集中を解いた私は自席で頭を抱える。


(なんとかして別れないと。絶対におかしいもん)


きっと彼は何か大きな勘違いをしている。

高校三年生になっても誰とも喋らず、隅っこで縮こまっている人間が珍しいのだろう。

クラスの中心で楽しそうに笑う姿はキラキラしていて、鬱蒼とした私と対極としか思えない。

隣に立つべきは私ではないのだから、いつまでも悪戯に時間をとるのが申し訳なかった。


(本当はちゃんと会話出来たら……)

「武藤さん、これ見て!」

「ひゃわっ!?」


急に目の前に灯った赤さに声が飛び出た。

煌めく瞳にはジメジメしたミディアムヘアの女が映っている。

驚きで激しく鼓動を打つ胸をなでおろし、私はニコニコした彼の手に収まる小さな白い物を見た。