口にする勇気はまだない。

背伸びだとしても、彼に並びたい。


(私は……鈴木くんが好き)


過去に起こした悪いことを受け止めて、彼なりに真剣にやさしさと向き合おうとしている。

綿菓子のような甘さはたくさんの顔色を伺って手に入れたものだろう。

後ろ向きで卑屈な私は、まだそこまで自分の弱さと向き合えていない。

それでも今、たしかに変わった。

傍観者のような立ち位置だとしても、私は感化されつま先立ちになる。


「アタシ、やっと前に進める気がする。だからあんたは反省して考え続けて」

「……ありがとう、野乃花ちゃん。本当にごめんなさい」

私を傷つけたものにそれを言うのは難しい。

恐怖の対象に向き合うのは震えが止まらなくなる。

だがこれは相手が悪い問題ではないのだから。


「ひなたちゃん、またね。 ーーーーーのーーら」

「……もう一度」


風が野乃花の言葉を遮ってしまう。

私の耳は野乃花の声だけを拾ってくれない。

すべての音が平等に、がしゃがしゃと混雑していた。


「もう一度言ってくださいっ!!」


それは驚いて目を丸くする状況。

しかし野乃花はすぐに口角を緩め、目を細めて大きく手を振った。


「ここにいてくれてありがとう! 一人じゃ怖かった! これからはアタシが相談にのるからね!!」


言葉が届く。

ぼんやりとしか認識できない言葉が、やさしい思いをのせて反芻する。

キレイに一言一句聞き取れたわけではなかったが、意味を歪めずに受け止めることが出来た。

あたたかい。

強い。

全力でぶつかっては傷ついてきた私が嬉しくて泣いている。

言葉を間違えて、受け取れなくて、不快な思いをさせるしかなかった。

だから余計に野乃花の真っ直ぐさに感極まり、涙が流れたのだった。


「……鈴木くん?」


突然、彼がひなたの手を取り、肩に顔を埋めてくる。

どうしたのだろうと首を傾げると、彼が静かに泣いていることに気づく。

彼は彼なりにいっぱいいっぱいだったと知り、胸が痛くなった。