「あんたは大事にする方法がわからないだけの、 ただの子どもだったんだね」

それは報復の気持ちを投げだした姿。

モヤモヤの残るすっきりとしない感情。

「あの時のあんたは一度も気持ちを言ってくれなかった。大事だって思ってる割に笑ってるあんたは怖かったよ」

これ以上、何も生まないと理解した諦めの顔だ。

その中で野乃花に出来るのは彼に気持ちを知ってもらうこと。

戒めとして爪痕を残そうと、なけなしの力で笑っていた。


「なんかあんたって可哀想だわ」

心から謝罪を求めていたのか。

それとも愚かなままでいてほしかったのか。

いざ気持ちと向き合ってもすぐに答えは出ない。


「許したくないけど、これ以上は何もしない。繰り返さないならいいよ」

「野乃花ちゃん……」

「でもまた同じ思いをする子がいるならアタシは何度でもあんたの嫌なことをする」

「……うん」

時間はかかっても、いつかは答えが出るだろう。

今を生きる私たちに、問いはいくつあってもいい。

過去に起きた辛い出来事とどう向き合っていくか。

相手が辛い感情を知ったとして、何が変わるのか。

過去に起きたことも、相手も、変わらない。

今、何か変化を起こせるのは自分だけだ。

どこか諦めにも似た想いを抱いて、顔をあげる。


「いっそこっぴどく振られたらいいのに」

「それはやだ。武藤さんと別れたくない!」

(そこで私を前に出そうとするのはなぜ!?)


必死な彼をみて、野乃花は吹きだすように笑った。


「最初からちゃんと言えバーカッ!」

そのつもりはなくても、野乃花が私に過去を振り切る姿を見せてくれた気がする。

決してスッキリとはいえない苦さを噛みしめて、野乃花は無理にでも笑うことを選んだ。

逃げてばかりの私と正反対の女の子。

気持ちを知りたいと全身で体当たりをする強気に憧れる。

これから彼は野乃花との間に起きた過去を戒めに生きていく。

気持ちよさのない不格好な姿を、私は見ていたいと思った。

せめて私は彼にとっての居心地の良さ。

かわいいとよりどころに出来る女の子になりたいと願った。