「だから別れて? いじめスイッチが入ったらあなたのことも笑って泣かせてくるから」

立場は違えど、同じ人物を前にしてもたらされる感情が大きく異なる。

具体的な野乃花の訴えを聞いても彼がそのようないじめっ子とは結びつかない。

いつも私のこと気づかい、嫌がることはしないようにする。

もし彼が野乃花をいじめていたとしても、今は違う。

それほど彼と共に時間を過ごしたわけでもないのに、何故だか断言出来た。


「鈴木くんは、私にはそんなことしない」


許されないことをしたならば彼は誠心誠意、反省しなくてはならない。

だが必要以上に彼を責め立てなくてもいい。

少なくとも、彼の過去を知り私がどういうする話ではないと思った。

彼が私に甘く優しくしてくれる分には、彼の本質を見て判断したい。


(私、ちゃんと彼と向き合いたいんだ)


人の目で判断するのではない。

私が私として彼をどう想うかを知りたい。

誰かにレッテルをはられて固定概念を持つのは嫌だと思った。

逃げてばかりの私が彼からもらう愛情に対し、今はそう思うことが精一杯だった。


「あなたには意地悪したかもしれない。だけど、今の鈴木くんは優しいんだよ?」


その言葉を受け、野乃花は真っ青になり私の両腕を掴んで食いかかってくる。


「根が変わるわけじゃないよ! アイツの本性はおかしいんだから!」

「私はまだ鈴木くんのこと、よくわかってないからなんとも言えない」


だから野乃花の言葉だけで判断したくない。

私の目に映る彼も、他の人が感じる彼も、全部彼なのだから知りたいと願った。


「あなたが辛かったのはわかったよ。たくさん泣いたんだなって思った」

かと言って、野乃花の言葉を受け止めないわけでもない。

私にとって彼はこうだと判断できるだけの材料が足りていないだけのこと。

他人への恐怖を抱き、誰も助けてくれない孤独はよくわかる。

野乃花の震える手を握るのは、きっと間に挟まれた私にしか出来ないと手を伸ばした。