正しく言葉が拾えない世界で、キミは怖かった

理解できずに問うても私の認識と野乃花の認識がかみ合わず、疑問ばかりだ。

べたべたに甘やかしてくる節はあれど、私の嫌がることはしない。

むしろそのあたりは人一倍繊細に気を使っているように思えた。


「まさかまだ何もされてない?」

「たぶん?」


その言い方だと彼が何かをする前提のようだ。

彼はそんな人間ではないと反論したくても、野乃花の心から安堵した笑みを見ると言葉に詰まる。

「そっかー。ならよかった。安心して別れてね」

そもそも今はお付き合いしてることになるのかさえわからないが。

期間限定のお付き合いは、愛し合っていると言えないため恋人同士に価するのか不明。

私と彼は釣り合わないのだから、別れるものならば愛想を突かれて振られるが正しい。

野乃花の解釈を正さなくてはと、私は拳を握り喉奥に詰まったものごと声を大きくした。


「おっ……お付き合いはともかく、鈴木くんは優しいですよ? ……なんで私に構うかはよくわからないけど」


彼を悪く言われるのは嫌だと意気込んで口を開いたというのに、最後は自信がなくなり縮んでしまった。


「何と!? あなた、そっちが趣味な人!?」

野乃花の言動はたまに謎方向に飛躍している。

ぶつぶつと呟きだし、頭を抱える姿は理解の範疇をこえて首を傾げるしかない。


「でもやっぱりよくない! あれは度が過ぎてるよ!」

その主張は因果関係が見えないので、そこまで駆り立てる理由が見えなかった。

一方的な訴えは何かしらの背景がある。

だが彼が一切反論せず、責め苦を受け入れていたのが気がかりであった。

「どういうことですか?」

逃げてはいられないと、私は震える声で野乃花に問う。

すると長く息を吐き出して、野乃花はベンチに座って私に隣に座るよう促してきた。

人との距離感に慣れない私は微妙な隙間をあけ、ベンチに腰かけた。

「アイツ、小学生の時アタシのことすっごくいじめてきたの」

意外な言葉に目を丸くする。

彼は過剰すぎるくらいに優しくて、小さな子どもをあやすお兄さんのように見える時もあった。