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声が言葉にならない。

音と化す世界。

教室の隅っこで花に水やりをして、私はこの教室に居場所を作っていた。

空気のような存在かもしれないけど、私はここにいる。

たくさんの音で溢れかえる場所で、私のための言葉を探していた。


「武藤さん、おはよ」


そんなわけで、とても困る事態となっていた。

爽やかなアーモンドアイに、赤褐色のさらさら髪。

柔く見つめられると大半の女子はときめいて、勘違いしてしまうだろう。


……そう、勘違いであればよかった。


「今日もめちゃくちゃかわいい」


人見知りで友達のいない私。

武藤 ひなたのモットーは目立たず、誰にも嫌われないように日陰に生きることである。

ピンクブラウンの髪はメディアムの長さ、毛先が内側にはねてややくせっ毛だ。

垂れた目元は自信なさげで、色白な肌は日に当たることを避けてきたとわかる。

甘い生活とは無縁の私に、勢いしかない状態で彼氏が出来てしまった。

ざわざわする教室の片隅で自席へと戻った私の前には人気者の男の子。

赤褐色の髪が印象的な爽やかくんである。

彼、鈴木 隼斗くんが私の前に座り、頬杖をつきながらニコニコと話しかけてきた。

今まで交流のなかった二人を見て、教室内にいる人たちがひっそりと視線を向けてくる。

いたたまれずに私は震える声を出した。



「あの……鈴木くん」

「ん?」

「わ、わわ……」

(別れてくださいって言うだけ……!)


背中に汗がだらだらと流れる。

甘ったるいマシュマロのような笑顔で見つめられ、私の緊張と羞恥は限界を超える。


「和食派ですか? 洋食派ですか?」

(いや、何の話ー!!)


いざという時、人間はコテコテの謎発言をするものだ。

何故、自分の口からこのような誤魔化しが出てしまったかもわからず、私は両手で顔を覆う。

指の隙間から彼を見ると、口角をあげ目を輝かせながら私の反応をじっとりと見ていた。


「んー、洋食かな? よくシチューとかオムライスを食べるよ」


爽やかな見た目の彼は子どもがあげそうなメニューを口にする。

彼はイケメンに属する人物で、華やかな女子たちとよく話していた。

人種が違うはずの彼に絡まれ、混乱した思考に撃沈する。



「あと、甘いものも好きかなぁ。武藤さんは何が好きなの?」

「……なんでも食べます」

「好き嫌いないんだね。いい子、かわいい」


すっと伸びた手が私の頭部を撫でてくる。

硬直した私はなされるがままに頭を撫でられ、耳まで真っ赤にした。


(恥ずかしい! 目立つからやめてー!)


仏頂面で回答したにも関わらず、彼はニコニコしており見ている側としては胸焼けしそうだ。