家庭科室での調理実習に盛り上がりを見せ、教室内がいつもより音に溢れている。

カレーライスとクッキーを作る班に分かれており、私はカレーライス班として黙々と作業を行っていた。


(美味しそうに出来てよかった)


他の生徒がご飯を皿によそい、私がルーをかけていく作業だが手が震えてしまう。


(キレイに盛り付け、キレイに盛り付け……)

緊張はかろうじて表に出ず、それは食欲のそそるカレーライスの出来上がりとなった。

ホッと息を吐き、安心に胸をなでおろすと突如、背後から冷たい空気を感じ背筋を震わせる。


(な、なに?)


それは彼と、彼と仲の良い女子生徒の会話だった。


「ご、ごめん。うちの班、みんな料理が下手な集まりだったみたいで……全部焦げちゃった」

「……仕方ないよ。オレも料理得意じゃないからわかるよ」

「で、でね? オーブンのところに紙袋と手紙が置かれてて……」


紙袋の中を彼がのぞきこむ。

とたんに鼻をつまみ、ググっと眉間に皺を寄せて後退っていた。


「焼きすぎてごめんなさい。お詫びにどうぞって残されてたの」

「ひ、干物?」

「誰が置いたんだろうね~?」

「……とりあえず、片付けしよっか」


彼はこれ以上、紙袋の中身を見る気がないようだ。

手を前に出し、青ざめてため息をつきながら歩き出す。


(なんだか……鈴木くんがまた落ち込んでる?)


騒がしい中で私は会話を聞き取れない。

カレーの香ばしい匂いでわからないが、紙袋からちらりと干物が見えたような気がした。

クッキーを焦がして落ち込んでいたかと思えば、干物を見た途端に彼はげっそりしてしまった。

気にはなるものの、私は傍観者となって立っていることしか出来なかった。


「ひなたちゃん、カレー出来た?」


別班でカレーを作っていた特進クラスの絵里が声をかけてくる。

私はやや背伸びをしながら頷き、じっと絵里の大きな黒目を見た。

にこっと模範的な笑顔を浮かべる絵里がちょんちょんと指をさす。

その方向を見ると干物をどうするか悩み、教師に相談する女子生徒の集団。

それが一体なんだろうと首を傾げると、絵里が苦笑いをしていた。


「ごめんね」

(……ごめんって言った?)


それは聞き直して良いものなのか。

わからずに反応できずにいると、絵里は友人に腕を引かれて去ってしまった。


(干物……?)


結局、彼の身の回りで起きている珍事件は解決することなく、時間は過ぎていった。