「ほら座れ座れ。チャイム鳴り終わってるぞ」
いつのまにか朝のチャイムが鳴っていたようで、担任の橋場が教室へと入ってくる。
手慣れた様子で隅っこに集まった生徒を散らし、席へと座らせた。
残された私と彼を橋場はじとっと見下ろし、大きくため息を吐いた。
「先生は生徒の色恋沙汰に興味ありませーん。さっさと座れ」
「いっ!? ご、ごめんなさいっ!!」
もう限界だと私は彼を突き飛ばし、走って席へと座る。
背を丸めて俯いていると、よろよろとしながら彼が席の前に立つ。
「ん? 机どうした?」
座ろうとしない彼にようやく橋場は彼の席にある異常に気付いた。
「……脱皮? なんかよくわからんが片付けろよ?」
「……はい」
それはこの世の終わりといった絶望感。
ティッシュ越しにそれを摘まみ、指先だけでごみ箱へと運んでいく。
女子たちは身を引いて苦笑いをし、男子たちはゲラゲラと笑っている。
……何かが脱皮したようなそれを片付ける彼は非常に辛そうだった。
ーーーーーー
それから彼の周りで不思議なことが起きるようになった。
「それで他のクラスの奴らに撮られててよぅ。アイツら動画あげやがって」
「お、これか? うわー、見事に逃げられてる」
「こっちはハートが傷だらけなんだよぅ!」
ーーシュッ!! バシッ、ボトッ……。
拓海を含めたクラスの男子生徒と喋っていた彼の後頭部に何かが飛んできた。
視界の中に飛び込んできた異物に視線を下すと、彼の後ろにはゴムでできた中年男性の顔マスクが落ちていた。
それを拓海が拾い、まわりの男子たちが指をさして笑い出す。
「えっ!? なにこのオヤジ顔! ……って、おい。隼斗、大丈夫か?」
彼はその場にしゃがみこみ、すっかりしょんぼりとして丸くなっていた。
落ち込む彼の前に拓海がゴム顔をぶらぶらさせ、からかっている。
「笑った天罰だ」
「……臭い」
どうやらゴム臭さが彼の鼻を刺激しているらしい。
「やだー。隼斗、今日どうしたの?」
クラスメイトの女子がやや引き気味に彼に問う。
「……知らない。オレが聞きたいくらいだよ」
(あんな眉間に皺寄せた鈴木くん、はじめて)
相当彼にダメージを与えているようだ。
どこから飛んできたのか不明なゴム顔はしわくちゃの中年男性。
加齢臭代わりのゴム臭さに彼は渋そうな顔をしていた。
「鈴木くん、大丈夫?」
どうしても気になってしまい、私は後先考えずに声をかける。
「だ、大丈夫っ! ありがとね!」
だが彼から距離をとられてしまう。
彼のことが心配な気持ちと保身で板挟みとなり、私は追いかけることが出来なかった。
いつのまにか朝のチャイムが鳴っていたようで、担任の橋場が教室へと入ってくる。
手慣れた様子で隅っこに集まった生徒を散らし、席へと座らせた。
残された私と彼を橋場はじとっと見下ろし、大きくため息を吐いた。
「先生は生徒の色恋沙汰に興味ありませーん。さっさと座れ」
「いっ!? ご、ごめんなさいっ!!」
もう限界だと私は彼を突き飛ばし、走って席へと座る。
背を丸めて俯いていると、よろよろとしながら彼が席の前に立つ。
「ん? 机どうした?」
座ろうとしない彼にようやく橋場は彼の席にある異常に気付いた。
「……脱皮? なんかよくわからんが片付けろよ?」
「……はい」
それはこの世の終わりといった絶望感。
ティッシュ越しにそれを摘まみ、指先だけでごみ箱へと運んでいく。
女子たちは身を引いて苦笑いをし、男子たちはゲラゲラと笑っている。
……何かが脱皮したようなそれを片付ける彼は非常に辛そうだった。
ーーーーーー
それから彼の周りで不思議なことが起きるようになった。
「それで他のクラスの奴らに撮られててよぅ。アイツら動画あげやがって」
「お、これか? うわー、見事に逃げられてる」
「こっちはハートが傷だらけなんだよぅ!」
ーーシュッ!! バシッ、ボトッ……。
拓海を含めたクラスの男子生徒と喋っていた彼の後頭部に何かが飛んできた。
視界の中に飛び込んできた異物に視線を下すと、彼の後ろにはゴムでできた中年男性の顔マスクが落ちていた。
それを拓海が拾い、まわりの男子たちが指をさして笑い出す。
「えっ!? なにこのオヤジ顔! ……って、おい。隼斗、大丈夫か?」
彼はその場にしゃがみこみ、すっかりしょんぼりとして丸くなっていた。
落ち込む彼の前に拓海がゴム顔をぶらぶらさせ、からかっている。
「笑った天罰だ」
「……臭い」
どうやらゴム臭さが彼の鼻を刺激しているらしい。
「やだー。隼斗、今日どうしたの?」
クラスメイトの女子がやや引き気味に彼に問う。
「……知らない。オレが聞きたいくらいだよ」
(あんな眉間に皺寄せた鈴木くん、はじめて)
相当彼にダメージを与えているようだ。
どこから飛んできたのか不明なゴム顔はしわくちゃの中年男性。
加齢臭代わりのゴム臭さに彼は渋そうな顔をしていた。
「鈴木くん、大丈夫?」
どうしても気になってしまい、私は後先考えずに声をかける。
「だ、大丈夫っ! ありがとね!」
だが彼から距離をとられてしまう。
彼のことが心配な気持ちと保身で板挟みとなり、私は追いかけることが出来なかった。