見てくれだけに向けられるかわいいは長く続かない。

(こんなこと言うのも、構ってちゃんなのかな? でも他になんて言えばいいの?)

答えがわからない。

少しでももしかしたらって夢見てしまうのは……後が苦しいとわかってるのに。

構ってちゃんになりたいわけじゃない。

心から彼をやさしい人だと思うからこそ、私に巻き込みたくなかった。


「ーーオレ、やりすぎちゃった?」

「え?」


……だけど見てくれしか見ていなかったのは私も同じ。

いつも笑っている彼の表情が、曇る。

校門を抜ける直前で彼は足をとめていた。


「ごめん、武藤さんを傷つーーーない。でも……おかしいのかもしれない」

「鈴木くん?」

「迷惑かけてごめん。距離感、間違えたのかもしれない」

息の量が多い。

笑おうとしてはすぐに消えていき、見た目にもわかるほどに頬に筋肉がひくひくしている。


「少し落ち着ーーーーね。これで武ーーーーに嫌われちゃーーーーーら」


いつもどこか一線を引いているように見えた。

それだけ彼は完璧だった。

誰も不快にさせず、甘く優しい言葉をささやいてくれる。


「ーーーーーーんね。……また明日、学校で」

「鈴木く……」

ほんの少し、彼との距離が遠い。

たった数歩分なのに、私の耳は彼の音を拾っても声にはしてくれなかった。

彼は背を向けて、校舎へと戻っていく。

とっさに手を前に出すが、足が震えて動かせない。

全身が心臓になってしまったかのようにうるさかった。

足元を見るとくっきりとした影が空に浮かぶ雲に飲まれていなくなった。


「離れてくって、わかってたじゃん」

彼を試すような行動ばかり。

人を疑ってばかりの最低な行為。

このまま彼を見ていたいという気持ちと、呪わしいブレーキが私の心を破壊する。

悲しい、苦しい。

切ない、怒り、嫌悪、諦め、希望、失望、幻想、現実。

喜びをもらった分だけ返せない私は呪わしい。


「……こんなことで泣く私は、ずるい」
  

別れたいはずなのに、痛い。

ほんのちょっとの勇気が私には越えられないほどに高かった。