【聞くべき言葉だけを拾えない】
聞かなくてもよい言葉がやけに明確になるときがある。
それは聴覚の検査に引っかかることのない現象。
私の耳は優先順位がなかった。
ーーーーーーーーーー
「武藤さん、一緒にかえ……」
「ごめんなさいっ!」
放課後になって私は彼の笑顔と言葉を振り払って走り出す。
スマートフォンでアルバイトの応募完了の文字をみて息をついた。
次はちゃんと働くことが出来るだろうかと不安の種はつきない。
「……やさしさに甘えるな」
(こんなの、弱い構ってちゃんアピールじゃん。……キライ)
作り出した状況を鼻で笑う。
悲劇のヒロインの面を被っても、世界で鳴る音は変わらない。
ここで彼に会えるかもしれないと、淡く期待しては情けない気持ちを味わう。
下足箱を前にして、私はその場にしゃがみこんだ。
私を変えるのは私しかいない。
だけどあの眩しい笑顔を見ていると私はもう変わった気分になっていた。
何も変わっていないのに、目線が合うだけで壁が低くなった錯覚。
「武藤さん」
「……なんで」
高いところにいる彼と距離が近い。
酸素を吸い込むと喉がヒリヒリと焼けていく。
「急いでたならごめん。でも武藤さんと一緒にいたくて」
微笑みを向ける対象が間違っている。
顔をそらすと彼はムッと頬を膨らませ、私の手首を掴む。
「オレ、何かしたかな? なんか、急に避けられた気がしたんだけど」
「そんなことないからっ……。 も、元々あまり人といるのが好きじゃないだけだから」
「……オレといても楽しくない? 武藤さんには迷惑でしかない?」
目を見ることが出来ない。
誰かを意識すれば私の世界は盲目になる。
その世界がハッと現実に戻った瞬間の足元から絡みつく泥を見たくない。
自覚する影の濃さに吸い込まれる感覚。
人の背中を見なくて済むのなら私は自ら背を向けよう。
彼の手首を振り払い、立ち上がる。
「一人でいたいの。だから構わないで」
足早にその場を去ろうと足を動かした。
それでも彼は後ろを追いかけてくるので、突き放すことが難しい。
自分が傷つかないために相手を傷つける卑怯者。
それが武藤 ひなたという生き物だ。
ーーおぞましくて、救いがたい。
聞かなくてもよい言葉がやけに明確になるときがある。
それは聴覚の検査に引っかかることのない現象。
私の耳は優先順位がなかった。
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「武藤さん、一緒にかえ……」
「ごめんなさいっ!」
放課後になって私は彼の笑顔と言葉を振り払って走り出す。
スマートフォンでアルバイトの応募完了の文字をみて息をついた。
次はちゃんと働くことが出来るだろうかと不安の種はつきない。
「……やさしさに甘えるな」
(こんなの、弱い構ってちゃんアピールじゃん。……キライ)
作り出した状況を鼻で笑う。
悲劇のヒロインの面を被っても、世界で鳴る音は変わらない。
ここで彼に会えるかもしれないと、淡く期待しては情けない気持ちを味わう。
下足箱を前にして、私はその場にしゃがみこんだ。
私を変えるのは私しかいない。
だけどあの眩しい笑顔を見ていると私はもう変わった気分になっていた。
何も変わっていないのに、目線が合うだけで壁が低くなった錯覚。
「武藤さん」
「……なんで」
高いところにいる彼と距離が近い。
酸素を吸い込むと喉がヒリヒリと焼けていく。
「急いでたならごめん。でも武藤さんと一緒にいたくて」
微笑みを向ける対象が間違っている。
顔をそらすと彼はムッと頬を膨らませ、私の手首を掴む。
「オレ、何かしたかな? なんか、急に避けられた気がしたんだけど」
「そんなことないからっ……。 も、元々あまり人といるのが好きじゃないだけだから」
「……オレといても楽しくない? 武藤さんには迷惑でしかない?」
目を見ることが出来ない。
誰かを意識すれば私の世界は盲目になる。
その世界がハッと現実に戻った瞬間の足元から絡みつく泥を見たくない。
自覚する影の濃さに吸い込まれる感覚。
人の背中を見なくて済むのなら私は自ら背を向けよう。
彼の手首を振り払い、立ち上がる。
「一人でいたいの。だから構わないで」
足早にその場を去ろうと足を動かした。
それでも彼は後ろを追いかけてくるので、突き放すことが難しい。
自分が傷つかないために相手を傷つける卑怯者。
それが武藤 ひなたという生き物だ。
ーーおぞましくて、救いがたい。