正しく言葉が拾えない世界で、キミは怖かった

こういう時、人と上手く関わる方法を切望するが簡単に掴むことは出来ない。

向けられる戸惑いに返す言葉がわからなくて、代わりに涙が流れるだけだった。

「なんで泣くの?」

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

「泣いてるだけじゃわからない。オレは武藤さんの気持ちが知りたい」

「だって鈴木くんもいなくなるでしょ?」

愛想が尽きて去っていく背中を見た。

向き合おうと発してくれた言葉を受け取れず、やがてそれは諦めとなった。

好きだと思っていた人が去っていく。

そのたびに私は自己嫌悪し、どんどん世界を狭めていく。

頑張ってもそれが正しいかなんてわからなくて。

それでも自分に出来ることをと思って手を伸ばしても……振り払われる。

そんなことを繰り返していくうちに私は人と関わることが怖くなっていた。

自分でも気づかないうちに、恐怖は私の中に侵食しきっていた。


「いなくならないよ?」

「だって本当のこと言ったらみんな離れちゃうじゃん! そうやって優しくして、期待させないで!」


彼を信じて、ひと時幸せだとしても。

その先に待つ絶望は幸せだった時間を飲み込んでいく。

そうなってしまえば私は耐えられない。

誰かを好きになっても、相手の幸せ像に私は不要だ。


「嫌われるくらいなら、近づかない。 深く関わると、怖いから」

「……抱きしめて、いい?」


これほど言っても折れない彼にカッとなり、顔を上げる。


「よくない! だからそうやって言われても期待には応えられなーー!!」

あんなに力加減がおかしかったのに。

そうやって優しく抱きしめることも出来るのに。


「なんで……」

「オレ以外のことで泣かないで」


……なにか論点がずれている。

だが彼は真面目な様子で、一心に向けられる愛情に胸がざわついた。


「今まで何言われたかはわかんないけど、オレはそのままの武藤さんが好きだよ?」

耳に触れていた右手が頬を包む。

紅潮した熱が伝わってきて、どちらが恥ずかしがっているのかわからない。

「だってこんなかわいいんだ。それでいてオレといて笑ってくれる」

笑ってしまうのは彼の気持ちが優しくてふわふわしているから。

驕ってしまいそうになるほどに、私を勘違いさせる甘さ。

まるで人と会話するときに妨げになっているものがない気分になる。

それくらいに彼は私に怒りを見せない。


「それだけ周りのこと考えてるから怖いだけだよ。それってめちゃくちゃ優しいし、かわいいよ」

「……そんな善人じゃないよ」

「別にいいよ。オレがそう思うんだからそれでいいんだ」


それは私のままでいいということ?