正しく言葉が拾えない世界で、キミは怖かった

サラサラ、サラサラ。

川のせせらぎがやけに耳に触れる。

上書きするように呼吸を感じると私の身体はビクッと跳ね上がってしまう。


「えっと……どういうことですか?」

「あ、えっと、誤解しないで! 本気で虐めたいとかそんなんじゃなくて!」

落ち着いた大人びた男の子。

それが年相応の男の子になっていく。

平静を装っていただけの子どもがひょっこり顔を出す。


「攻撃したいとか、そういうのではなくて……」

曖昧な言葉にしかならない。

きっと彼はすべてに本気なのだろう。

やさしい彼も、甘いばかりの彼も、ギラギラの目をした彼も。

内側は愛情に満ちた人で、それが過剰な表現になる。


「それだけの説明だとわからない」

「そ……そうだよね。どう言えばいいのかな……」

うろたえる彼は珍しい。

コントロールの効かない愛情に戸惑っているのは彼だった。

こうも不安定な彼を見ると、泣いてばかりの私が妙に背筋を伸ばしていた。


「とりあえず離してください。……いたいです」

「ご、ごめん。……ほんと、やり過ぎてしまう」

「座って話しませんか?」

「……うん」

落ち込んだ彼の手を引いて歩いていく。

ベンチに座るとすぐに頭を抱え、うずくまる彼に言葉が出ない。

すでに愛情深い人だと思っていたが、それでも抑え込んでいたようだ。

爆発した感情にひどく後悔していた。

それでも彼はこの気持ちに向き合う勇気があるようで、ポツリと懺悔のように口を開く。


「オレ、昔からかわいいものが好きで。その……かわいすぎて」

(真っ赤……)

夕日に紛れた赤ではない。

これは彼にとっての恥をさらしていた。

「いじりたくなっちゃうんだ」

「いじる?」

「害を与えたいわけじゃなくて、ただ本当にかわいすぎてドキドキするんだ」

泣かせたいわけじゃないのに、弱くうるうるした目が好き。

嫌がっているとわかっていても、その顔が好き。

思春期に口にしては危険な愛情癖だ。


「ぬいぐるみとか引っ張ってしまったり、赤ちゃんのほっぺとかフニフニしたくて」

大きな関節の浮き出る手で顔を覆い隠し、止まらない告白をする。

小動物とか見るとかわいすぎて触るのが怖いくらいだと。

それでも抱きしめたいし、フニフニしたいから手を伸ばさずにはいられないと赤裸々だ。

ふれあい広場でうさぎに触れたくても逃げられていた彼を思い出す。

うさぎは彼の捕食欲を察知していたのだろう。

彼がかわいいもの好きなのはよく理解した。

だがそれが私への恋愛感情とは結びつかず、首を傾げざるを得ない。


「それと私のなんの関係が?」