正しく言葉が拾えない世界で、キミは怖かった

このやさしい眼差しに唇をきゅっと結ぶ。

こうして縮こまるときにやさしく声をかけられると涙が出そうになった。

泣いたら人を困らせると、私は彼から目を反らして震える声で会話を続ける。


「や……れそうなバイトがあまりなくて」

「高校生だと出来るの限られるからね。コンビニとかカフェは?」

「……接客は避けたくて」

「うーん、なら調理はどうかな? 裏方だし、お客さんとあまり関わらないよ」

幅の狭い選択肢のなかで彼は思いつく限りのアイデアを出してくる。

ワガママばかりの私にあわせて、前の席に座ってにこっと微笑んできた。

「武藤さん、料理出来るんだし」

「調理……」

意見が出たところで先にマイナス要素が思い浮かぶのが情けない。

ドンくさくて不器用な私にてきぱきと動くことを要求されてこなせるだろうか。

ドタバタしているときに指示されて聞き直さずに理解できるだろうか。

やってもいないくせに、不安ばかりを具体的に想像する。

前向きにとらえられず、返事が出来ないことにまた自己嫌悪した。


「……ねぇ、武藤さん。週末、一緒に出かけない?」

「えっ?」

(週末って言った?)


「煮詰まってても仕方ないしさ。少しリラックスしようよ」

彼は私の中に新しい風を通してくれる。

「フラフラしてたらやりたいこと見つけられるかもしれないし」

一人でうずくまり、負のループに陥りがちな私に手を差し出してくれる。

怯えて握り返せないでいると、向こうからぐっと引っ張ってくるものだから息をのむ。

前向きな姿に私は泣いてしまいそうだ。

唇を震わせながら、私はあたたかい気持ちが嬉しくて笑った。


「うん。……動物園、行きたいな」

「っうん! 行こう!」

前を向きたい。

だけど私は前を向こうとして頑張ってしまう。

結局、頑張ってもうまくいかずに落ち込んでいた。

彼のそれでもいいよ、と絶対的に受け入れてくれる姿勢。

考えて動くことが出来ない私の手が、いつのまにか彼の手を握り返していた。