正しく言葉が拾えない世界で、キミは怖かった

「おー、絵里。どーした?」


気さくでフレンドリーな彼はいつも教室で見せている表情と変わらない笑顔で対応する。

「生徒会でちょっとねー。雑用ばっかで嫌になっちゃう」

「大変だなー。まぁがんばれよ?」

「大学推薦狙ってるからね! 早めに受験を終わらせるに越したことはないわ!」

将来をしっかりと考え、計画的に動くタイプだと察し身構える。

絵里の制服を見ると、胸ポケットの校章の横に特進クラスのバッチがついていた。

生徒会も進んで行っている様子で、自分の足で土台を作る女の子だった。

「えらいなぁ。計画的に動いてて尊敬するよ」

「隼斗がゆるすぎなだけよ」

ははっと笑い、受け流す彼。

基本的に彼はゆるい性格をしており、何かに執着することもなくさらっとしている。

付き合うようになってから彼から時折捕食者のような視線を感じるのは意外なことであった。

「ところで隣の子は誰? 見たことはあるけど名前は知らなくて」

黒髪のミディアムストレートの髪を後ろに流し、凛とした切れ長の目で見下ろされる。

私は絵里のことを顔も名前も知らなかったので、一方的に覚えられていることがいたたまれない。

人と話すことが少ないからかもしれないが、私はなかなか人の顔と名前が覚えられなかった。

誰かもわからない人に怯えてばかりの卑屈女子だ。

「あぁ、武藤さんのこと? 同じクラスでオレの彼女ですっ!」

俯き癖のある私でも彼の言葉には顔を上げざるを得ない。

そんな晴れ晴れとした顔をして堂々と言わないでほしいと涙目になった。

付き合ったのも最近の話のため、絵里は目を見開き声をあげる。

「えっ!? 彼女いたの!?」

「なんだよその反応。別にいいだろ、好きな子なんだし」

「いや、意外だった。あんたは恋愛に興味ないと思ってたよ」

「人並みにはあるけど?」

「誰に告られても付き合わなかったくせに」

やはり彼は別次元の人なのだと実感する。

誰かに告白されるくらいには好意を得て生きる人。

周囲に無頓着な私でさえ、女子たちが彼を見て騒いでいるのを知っている。

人の輪に入れないような凡人以下の私が見ることさえ許されない人だと思っていた。