教室の片隅で食べるか、人目につかない場所をさがして食事をとる。

酷い時には清潔感に欠けた場所に隠れたこともあった。

そんな私が強者の称号を得たような場所で彼氏とお昼を食べている。

(ありえないっ!!)

校舎内のベンチでだらだらと汗をかきながら、巾着袋にいれた弁当を取り出す。

「お、武藤さんはお弁当なんだ!」

「ひゃいっ!」

ここは風通しもよく、声が聞き取りやすい。

まっすぐに飛んでくる言葉にドキドキしながら目を回す。

弁当生活なのは一円でも多くためたいという節約であり、決して料理好きでない。

女子らしいかわいさがなくてごめんなさいと自爆した。

「すごいなぁ。オレは料理が上手く出来なくて」

「でもお弁当持ってきて……」

言葉が出てこない。

見れなくはないが、形の悪く潰れたおにぎりに焦げ付いた卵焼き。

白と黄色しかない単純さだった。

「おにぎり上手く握れなくて。あとつい焼きすぎちゃうんだよね」

おそらく米の量に対しての圧縮度は高いだろう。

妙に艶の多いおにぎりだった。

彼はおにぎりを頬張りながらスマートフォンをいじり、画像をスライドさせている。

「例えばこれなんかはー」

黒い。

それは輪っかが炭と化したドーナツ。

食べれないことはないだろうが、側面はそぎ落とす必要がある。

楽しそうに笑う彼を見ているとそれも悪くはないと邪気がおとされた。

ちょっと過剰なだけだろうと、私は明るい彼にソワソワする。


「ドーナツって……甘いもの好き?」

それはほんのわずかの好奇心。

背伸びのようなものだが、彼にはそうとう嬉しかったのだろう。

ぱぁっと表情を輝かせ、ウキウキとしながら他の画像も見せてくる。

「スイーツはすごいよ。癒される」

砂糖多めの彼はやっぱり糖分多めで出来ている。

ただ一般的な量と比較すると、それはまだ私にはわからない量なのだろう。


「マカロンとか握りつぶしたくなる……」

「に、にぎ?」

「ごめん! なんでもない!!」

大きく笑ってスマートフォンをしまい、おにぎりにかぶりつく。

時折、彼からは枠組みを超えた何かを感じた。

草食を超え、絶滅危惧種となる私は気配に敏感だ。

彼からは稀にぶわっと桃色の塊みたいなものが飛び出てきていた。

……それも考えすぎだろうと、内に秘めるしかなかった。


「あ! 隼斗だー!」

ここは校舎内のベンチ。

陽気な人たちの居住地だ。

私にとって危険地帯となる場所で、華やかな女子が現れるのも必然だった。