「拓海、こっちパスッ!」

「わわわ! みんな囲むなよぉ! ええい、パス!」

「ナイスパスッ!」

天翔ける翼のはえた人みたいだ。

軽やかにフリースローを決め、スパッと清々しくガッツポーズをとる。

あまりに華麗に決めるものだから周りの男子たちは興奮して盛り上がっていた。

その輪の中心になって彼はキラキラと笑う。

「自分からパス求めるなんて珍しいな」

「いやー、チャンスかなって」

「拓海も囲まれてたからな」

「みんな酷いよ! 俺ばっかり囲んで!」

陽キャの塊は眩しいではなく、もはや失明レベル。

彼らにとって楽しい声は私には混ざって言葉にならない。

誰かが喋っている音となり、言葉を受け取れない私はゆっくりと手を下す。

「全然違う。……遠い人なんだな」

近づきたいと思うことも叶わない人。

生粋のネガティブは天然ものの明るさに消滅する。

煤のような存在になぜ”かわいい”という言葉が出るのだろう。

わからない。

だからと言って問うことも出来ない私は意気地なし。

ーーーーーーーーー

(そろ~り……)

授業を終え、教室に戻りまた授業。

そうして午前が過ぎると私は忍び足で教室を去ろうとする。


「武藤さん」

「ひゃいいっ!?」

(見つかったー!!)

彼の視界に入ることが怖くて逃げようとした。

だが彼の全方位レーダーには敵わず、私の手首は彼という枷をつけていた。

ぎこちない錆びついた動きで振り返る。

「鈴木くん……」

じっと見つめられ、言葉がない。

長身の彼から見下ろされると少しだけ圧迫感があり怖い。

無意識に身体がびくびく震えてしまう。


「あのぉ?」

「あ、ごめん。つい」

パッと目を反らし、顔を隠す。

「かわいくて見ちゃった」

耳まで真っ赤な彼に私まで恥ずかしくなり、紅潮した。

こうも直接的な愛情を見ると勘違いばかりだ。

「お昼、一緒に食べよ?」

「あの、私一人で……」

「無理にとは言わないけど、少しでも一緒にいたいなー」

最近、絶滅したであろう押せ押せの肉食動物。

類まれな存在はきっと太陽よりも燃えるように熱い。


「振り向いてもらうための時間は限られてるし……ね?」

(そんなのずるい。断れるほど私は……)


ーー強くない。

「……はい」

大切にされるとはこうもふわふわした感覚なのだろうか。

世の中にいるキラキラした人たちは生まれつきの天使だ。

なれば私は追い出され、爪弾きとなった欠陥品。

欠けた部分は繊細で、触れられるとやたら泣きたくなるものだった。

(糖分過多……につき注意)