正しく言葉が拾えない世界で、キミは怖かった

コラボカフェを出るとすでに日は暮れており、空にはうっすらと月が浮かんでいる。

タイミングが見つからず、彼の話を聞こうと意識しながら歩いていた。

すると彼に告白をされた公園の横を通過しようとしており、私は彼の腕を引っ張って立ち止まる。


「……公園、寄りたいの?」

驚いて目を丸くしていた彼だが、言葉を出せずにいる私の意図をくみ取ってくれた。

ほんの少し泣きそうになって頷くと、パッと彼から距離をとってベンチへと駆けていく。

ベンチの表面は冷えており、座った途端に身を震わせた。

身を縮めていると彼がニコニコしてこちらを見ており、罪悪感に押しつぶされそうだ。

覚悟を決めねばと深呼吸をし、拳を握って彼と向き合った。


「ご、ごめんなさい。私……鈴木くんとは付き合えません」


口をポカンと開ける彼。


「ごめん。オレ、何か嫌なことした?」

笑顔を絶やさずにいようとして、かえって強張っている。

私は首を横に振って、シャツの袖をもてあそぶ。

「何か思い違いをさせてみたいでごめんなさい」

「勘違い?」

「これ以上、鈴木くんに誤解を与えたくないです……」

唾が飲み込めない。

なんとなく口の中が酸っぱい気がする。


「鈴木くんが言うようなかわいい人間じゃないので。期待にこたえられないから」

涙腺が緩んでいくのはずるい。

別れてほしいと口にして、まるで私は悲劇のヒロインの面構えだ。

悪いのは私だけだというのに都合のいい態度しか取れないことに苛立つ。

振り回した先にあるのは失望だけだと、私は口角をあげて笑うように自分を鼓舞した。


「もっといい人、いるから。鈴木くんかっこいいんだし、すぐ新しい彼女さんが見つかるよ」


カバンの中に入れていたまゆタレうさぎのキーホルダーを手に取り、前に出す。


「ありがとう。 これ、返すね」

「……受け取れない」

「え?」

「受け取ってたまるか!!」


ぐいっと手首を引かれ、抱きしめられる。

何が起きたか理解出来ずに、動揺に心臓が暴れ出す。


「へっ!? ちょっと、あのっ!」


ーーぎゅううううう!!


それは潰れてしまうのではないかと思うほどに力強かった。


「い、いたい……! 痛いってばぁ!」

「あっ……ご、ごめん」


パッと離れ、罰が悪そうに目を反らす。

急に抱きしめられたかと思えば、非常に力が強くて何が起きているのか把握できなかった。