正しく言葉が拾えない世界で、キミは怖かった

※その恋、くせ強につき要注意。

そう、彼の愛情はクセが強くてちょっと個性的なので困ってます。

武藤 ひなた、卑屈で逃げ足の早い弱虫ですが彼氏が出来ました。





ーーそれはアルバイトを終え、公園のベンチに座っていた時のことだった。


(またバイト辞めちゃった。もう3つ目だなぁ)

高校三年生、17歳の春。

16歳になってすぐにアルバイトを始めたが、うまくいかないことだらけで辞めることを繰り返す。

すでに三か所辞めており、長くて数か月しかもたない現実。

雇う側もその数に驚き、なかなか面接にいってもうまくいかない日々だ。

コミュニケーションがとれないわけではない。

ただ、私にとっては世界が音に溢れすぎているだけだった。


(ホントやだ。なんで私ってこうなんだろう)

自己嫌悪だけで終わるならば平和だろう。

私は周りの目に耐え切れず、いつも自分でシャッターを閉めることでしか自分を守ることが出来なかった。

誰に物を言うことがなく、スマートフォンを握りしめるだけ。

SNSに言葉をかくと手が止まらなくなり、依存してしまうことに怯えて禁じている。

そうして内側にとどめて置けなくなった感情は涙となってあふれ出す。

泣けるだけマシなのかもしれないが、いつも喉には言葉が引っかかっていた。


(こんなことで泣いてる暇があれば次のバイト探さないと)


歯を食いしばって涙を拭う。

私には高校を卒業したら家を出て一人暮らしをするという目標があった。

それを達成するためにアルバイトをし、毎日を乗り切ることが私のセーフティーゾーンだった。



「……武藤さん?」

顔をあげると目の前にはきりっとした顔立ちのシェパード。


(犬が喋った……)


こげ茶色の毛並みにつぶらな瞳が私をじっと見つめている。

目が合うとシェパードは私の膝に足を置き、頭部をスリスリと擦り付けてきた。


「わわっ……人懐っこい子だなぁ」

かわいい犬に気持ちがやわらぐ。

シェパードの頭を撫でながら顔をあげると、公園の電灯に照らされた赤褐色に目を奪われる。

まるで燃える夕日のようだ。

いつもは太陽のように明るいクラスメイト、鈴木 隼斗が高い視点からこちらを凝視していた。

男女問わず人気者なだけあり、見ていて嫌味のない爽やかな顔立ちだ。

警戒心の強い私でさえ、つい彼の顔を見てしまうほどに整っている。


「……やっぱかわいい」

「え?」

声もほどよく甘く色っぽい。

そんな彼から落ちてきた言葉は聞き間違いだろうかと疑った。