『君をなにに例えたら』

 最終巻の最後の話のタイトルがそれだった。
 その話をよく読んでみると、好きな人をいかにきれいなもので例えても、そのきれいさと好きな人のきれいさは別物で、例えようのない美しさがお互いにあるのだと物語は伝えていた。

 それを読んで、彼女がなにを伝えたかったのかがわかったような気がした。
 きっとなんでもよかったんだ、本当に。
 僕の目に彼女がどう映るのか、知りたかっただけなのだ、と。










 ——君のことを、何に例えたらいいのだろう。
 もう伝えることはできないけれど、君が答えを望んでいたと知ったから、しっくりくる言葉を僕はずっと探し続ける——。

 窓を開けたら冷たい風がびゅうと吹いて、一枚の落ち葉を運んできた。
 その模様がなんだか君がよく使っていたスタンプのあのねこの模様に見えてきて、はさみを取り出して切ってみた。
 歪な形にできあがったそれはお世辞にも上等とは言えないけれど、君が笑ってくれるような気がした。



 満開の桜のように、見た人を笑顔にできる人。
 静かに打ち寄せる波がさらっていく、太陽にきらめく砂のような人。
 秋の夜長に聞こえてくる、静かな虫の音のような人。
 足跡もなにもない白く冷たい雪のように、きれいだけど少し寂しさを感じる人。
 

 僕がおもう彼女はこれだ。

 どれも君を表わすのに良い表現だと思うけれど、君が求めていた答えとは違うかもしれない。
 でも、僕は僕で、君がどんな人だったか聞かれたら、いまは迷わずこう答えるよ。

 どんな落ち葉でつくるねこよりもかわいい人——と。








 そういえば、210ページ、9行目、彼女が好きだと言ったセリフはこれだった。

「一番目に好きな人と二番目に好きな人だったら、二番目に好きな人と付き合った方がうまくいくんだって」

 これが僕への想いだと、遠回しな言い方に、僕はまた泣いた。