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『犬上くんは小説家になります』

『そして、ハッピーエンドしか書けなくなります』

 彼女のいない世界で苦しい時間だけが過ぎていく。

 棘だらけの薔薇を千本抱きしめながら、僕はその苦しみに耐え続けてきた。

《この物語はフィクションです。実在の人物、団体とは一切関係がありません》

 小説の世界なら彼女は永遠に生きることができる。

 だから、僕は小説家になったんだ。

 彼女にかけられた呪いの通りに。

 彼女のことだけを想いながら。

 彼女がいる世界に閉じこもるために。

 ただ、あれから、ずいぶんと時間がかかってしまったね。

 だけど、やっと君に小説を届けることができるよ。

 君に届かなかった、最後の三行を、ね。