彼女が空から降ってきた。
 
 深夜二時。僕、相模原常陸(さがみはらひたち)は習慣となる徘徊をしていた。母が特異な病気で亡くなった日から何か心に引っ掛かるものがあれば目的地を定めず深夜の街中に足を進めた。
 僕はよく自分の人生についてよく考える。しかしそれは志高く将来何になりたいとか、どうすれば人生を豊かに過ごせるなどの崇高なものではない。決まって考えるのは自分が生きている理由と生まれた意味だ。それは哲学的なものでも生物学なものでもない。
 ただ、自分の人生が楽しくないことに違和感を覚えていた。
 外から見ると人生を楽しく過ごしている普通の男子高校生に見えたかもしれない。だが実際には対極で、空虚な心を宿したまま何となく日々を過ごしていた。その違和感の正体と払拭方法を探し出すために徘徊して思考を巡らす。夜風に当たりながら体を動かすと一時的にだが解決するので僕はこれを習慣としていた。
 今日は満月が綺麗で自分の影が道路に綺麗に写っていた。広大な月の光に比べて自分の悩みなどちっぽけな存在に過ぎないのかと思慮を巡らせていた時、急遽視界が暗くなる感覚を覚えた。僕はこの正体を突き止めるために上を向いた。その瞬間……。
 女子高生が空から落ちてきた。
 この影の正体はこの人の体なのだと察する。彼女の頭と僕の体は見事に接触し、僕がクッションになったため彼女は大きな怪我をせずに済んだ。代わりに僕は腰を打ったが、致命傷にはならずに済んだ。
 落ちてきたのは何かの事故なのだろうと察した。しかし、不思議な点があった。なぜかわからないが彼女は靴を履いておらず、あたりを見回したが飛び散った靴などなかった。
 彼女は一度こちらを振り返り、何も言わずにその場を去った。 
 彼女が落ちてきた近くには「遺書」と達筆で書かれた便箋が落ちていた。

『拝啓、皆様へ
 私はもう限界です。
 この世の全てが嫌いになりました。
 社会に必要とされておらずお荷物な私に生きる価値なんてない…。
 さようなら世界』
 
 彼女が自殺を図ったのだと察した。
 そして、僕は遺書を持ち帰った。