風が頬をくすぐる感触に、閉じていた瞼をそっと持ち上げる。
瞳に映る景色が、過去の記憶を揺蕩っていた私を、急速に現在に引き戻した。
今年で訪れるのはもう三度目になる、地域の神社の夏祭り。
唐突に、ドォンと遠く、響き渡った一つの音。その一つを皮切りに、次々と生まれ、広がっていく、体の芯をも震わすような、音と光のハーモニー。
「ねぇ、今年も来たよ」
一人、見上げた空には大輪の花。
「綺麗……」
呟いたその声は
花咲く夏の夜空の中に
混ざって、
溶けて、
そうして消えた。
私は手にした赤い林檎飴を、一口齧る。
「甘い……」
その甘さに、思わず苦笑した。ここの林檎飴は毎年甘い。元来甘党という訳ではない私には、少々甘すぎるくらいだ。けれど、その甘さも存外悪くないと思うようになったのは
「彗にぃのせいだよ」
口を尖らせ、夜空を見上げる。なんだか可笑しくなってきて、耐えきれなかった笑いがくすりと漏れた。
艶々と光る林檎飴。その甘さに惹かれ、私はまた一口、目の前の赤に噛み付いた。
完
瞳に映る景色が、過去の記憶を揺蕩っていた私を、急速に現在に引き戻した。
今年で訪れるのはもう三度目になる、地域の神社の夏祭り。
唐突に、ドォンと遠く、響き渡った一つの音。その一つを皮切りに、次々と生まれ、広がっていく、体の芯をも震わすような、音と光のハーモニー。
「ねぇ、今年も来たよ」
一人、見上げた空には大輪の花。
「綺麗……」
呟いたその声は
花咲く夏の夜空の中に
混ざって、
溶けて、
そうして消えた。
私は手にした赤い林檎飴を、一口齧る。
「甘い……」
その甘さに、思わず苦笑した。ここの林檎飴は毎年甘い。元来甘党という訳ではない私には、少々甘すぎるくらいだ。けれど、その甘さも存外悪くないと思うようになったのは
「彗にぃのせいだよ」
口を尖らせ、夜空を見上げる。なんだか可笑しくなってきて、耐えきれなかった笑いがくすりと漏れた。
艶々と光る林檎飴。その甘さに惹かれ、私はまた一口、目の前の赤に噛み付いた。
完