その日から、私たちはほとんど毎日、お茶会ならぬ林檎会を開催した。もちろん、お互い病人だから食べ過ぎる訳にはいかない。彼が買い過ぎた林檎のお菓子を少しずつ消費して。それが尽きたら、時々私が病院の売店で新作の林檎スイーツを見つけて買ってきたり、ただ果物の林檎を剥いたりした。

最初は林檎会から、そしてそれは少しずつ、林檎がない日にも広がって。気づけば毎日、どちらかのベッドに集まって、話をしていた。

「本、好きなの?」

彗にぃが、私のベッドの周りに積まれた本の山を指さした。

「うん。あ、いや、どうだろう」

私は頷いたあと、やっぱりちょっと考えて、言葉を濁す。

「どうだろうって」

「うーん。確かに昔は好きで読んでたんだけど。今となっては好きだから読んでるのか、他にすることがないから本を読むしかないのか、分からなくなっちゃった」

「そんな悲しいこと言うなよ」

「あ、でも。ねぇ、これとか好きだよ」

「どこやったっけ」と言いながら私は本を漁る。

「あった」

手にしたそれは、一冊の小説。

「夏祭りを題材にした、近未来SF恋愛超大作」

「なんか……色々要素が詰め込まれてるね?」

「コメントに困ってるでしょ。ほんとに面白いんだけどな」

「じゃあそれ、貸してくれない?」

「え、読む?」

「うん、俺も結構本好きなんだよ。ここに持って来てないから、最近ご無沙汰でさ。読んでみたい」



*** ***



 貸してから五日ほどで、彗にぃはその本を読み終わった。

「ありがとう」

本を差し出す彼に、私は尋ねる。

「どうだった?」

「近未来SF恋愛超大作だった」

「でしょ」

「ははっ。まぁ、それはさて置き。なんか、さ」

「うん」

「率直に、ものすごく、夏祭りに行きたくなった」

それは季節が完全な夏を迎えるには、まだ少し早い、六月のことだった。

「あぁ、分かる。私さ、実は行ったことないんだぁ、夏祭り。夏に入院してることが多くて」

「暑いと体調崩すって人、多いよね」

「ね。私たちの場合、崩すのレベルが違うけどね」

「確かに」

二人してくすくすと笑い合う。笑いがおさまると、私は一つ、息をついた。

「だからさ、夏になるといっつもこの本、読み返してた。この中の夏祭りが、私の知ってる夏祭りの全部なんだ。彗にぃは? 行ったことある?」

「夏祭りか。昔、幼い頃に何回か。最近はもうめっきり行ってないよ」

「そっか」

「行きたいな」

「うん」

「今年の夏、二人とも外出許可貰えたらさ、行こうか」

「え?」

「夏祭り。確かこの病院の近くにある神社で、地域の祭りが毎年あるって」

「あ、うん。よく知ってるね」

「さっき、この本読んでたら行きたくなったって言っただろ? それで、実はちょっと調べた」

「ふふっ。本当に行きたくなったんだね」

「嘘じゃないって」

むくれた顔をする彼に、込み上げてきた笑いはなんとか堪えた。多分、今笑ったら彗にぃは臍を曲げてしまう。いや、そんな大人気ないことはしないかもしれないけれど、そういう“振り”はしそうだから。

「分かってるって。……いいよ」

「え?」

「行こう、夏祭り。二人で」

件の夏祭りの開催は例年、八月中旬。その日が、待ち遠しくてならなかった。