林檎のコンポートが乗ったケーキに、プラスチックのフォークを刺して。私は徐に口を開いた。
「私、今日、誕生日なんだよね」
目の前の青年は林檎味らしいカップケーキを食べていた。
「え?」
「ケーキ、ありがとう」
「えっと、たまたまだけど……。何歳?」
「今日で十五」
「そっか。おめでとう。あのさ、ちなみに俺、明日誕生日なんだよね」
「なんかびっくり」と言って笑う彼に、私も尋ねる。
「何歳になるの?」
「明日で十七」
「ふぅん。じゃあもう、今日のこれは二人分まとめておめでとうってことで」
私は机いっぱいに並べられた、甘い物たちを指差す。
「誕生日パーティー?」
彼の言葉に、私はこくりと頷いた。
「林檎、好きなの?」
「あぁ、うん。外に出たら、つい買っちゃう」
「外に出たらって」
「今日の午前、外出許可貰っててさ。親に車出してもらって、店を回って買ってきたんだ」
「で、買い過ぎたんだ?」
「買える時に買わないとって、それが癖になってて。気づいたらどんどんその量が増えてるんだよね」
その言葉に、私はピンとくる。もしかして。
「入院生活、長いの?」
「うん。それなりに、かな」
「でも、ここで見かけたこと、ないけど」
「この前までは違う県の病院に入院してた。いい医者がいるって聞いて、こっちに移ってきたんだ」
「そう」
「君は?」
質問を返されて、私は小首を傾げる。
「ここ、長いの?」
「千晴でいいよ」
「え?」
「名前。千晴でいい。私もあなたと同じようなものだよ。県は移ってないけど、昔から入退院繰り返してるんだ。今回はもうすぐ一年になるかな」
「そっか」
「うん。早くこんなとこ、出たいよね」
私は窓の外に視線を向ける。彼も、同じように外を見た。手を伸ばせばすぐそこにあるのに、こんなにも、遠い、外の世界。その景色は、見慣れたこの窓に切り取られてしまっているせいだろう、色褪せて見えた。
「ねぇ」
「何?」
「俺も、名前でいいよ」
彼の声で、思考の波に呑まれそうなっていた意識が、こちらに戻る。二回、努めてはっきりと瞬きをして。ともすれば再び引っ張られそうになる仄暗い気持ちを断ち切った。
「安西彗杜さん、だっけ」
「うん」
「なんだろう。歳上だからなぁ。……じゃあ、彗にぃでいいや」
「けいにぃ?」
「彗杜お兄さん。略して彗にぃ」
「あぁ、なるほど」
「改めてよろしくね、彗にぃ」
「私、今日、誕生日なんだよね」
目の前の青年は林檎味らしいカップケーキを食べていた。
「え?」
「ケーキ、ありがとう」
「えっと、たまたまだけど……。何歳?」
「今日で十五」
「そっか。おめでとう。あのさ、ちなみに俺、明日誕生日なんだよね」
「なんかびっくり」と言って笑う彼に、私も尋ねる。
「何歳になるの?」
「明日で十七」
「ふぅん。じゃあもう、今日のこれは二人分まとめておめでとうってことで」
私は机いっぱいに並べられた、甘い物たちを指差す。
「誕生日パーティー?」
彼の言葉に、私はこくりと頷いた。
「林檎、好きなの?」
「あぁ、うん。外に出たら、つい買っちゃう」
「外に出たらって」
「今日の午前、外出許可貰っててさ。親に車出してもらって、店を回って買ってきたんだ」
「で、買い過ぎたんだ?」
「買える時に買わないとって、それが癖になってて。気づいたらどんどんその量が増えてるんだよね」
その言葉に、私はピンとくる。もしかして。
「入院生活、長いの?」
「うん。それなりに、かな」
「でも、ここで見かけたこと、ないけど」
「この前までは違う県の病院に入院してた。いい医者がいるって聞いて、こっちに移ってきたんだ」
「そう」
「君は?」
質問を返されて、私は小首を傾げる。
「ここ、長いの?」
「千晴でいいよ」
「え?」
「名前。千晴でいい。私もあなたと同じようなものだよ。県は移ってないけど、昔から入退院繰り返してるんだ。今回はもうすぐ一年になるかな」
「そっか」
「うん。早くこんなとこ、出たいよね」
私は窓の外に視線を向ける。彼も、同じように外を見た。手を伸ばせばすぐそこにあるのに、こんなにも、遠い、外の世界。その景色は、見慣れたこの窓に切り取られてしまっているせいだろう、色褪せて見えた。
「ねぇ」
「何?」
「俺も、名前でいいよ」
彼の声で、思考の波に呑まれそうなっていた意識が、こちらに戻る。二回、努めてはっきりと瞬きをして。ともすれば再び引っ張られそうになる仄暗い気持ちを断ち切った。
「安西彗杜さん、だっけ」
「うん」
「なんだろう。歳上だからなぁ。……じゃあ、彗にぃでいいや」
「けいにぃ?」
「彗杜お兄さん。略して彗にぃ」
「あぁ、なるほど」
「改めてよろしくね、彗にぃ」