「千晴さんは、自分が死んだと思ってる?」

「違うんですか?」

問うと、秋さんは右手を顎に当て、小首を傾げた。

「少し違う。千晴さんは今、これから死ぬか、それとも生きるか、生と死の、その境界線上に立っている存在なんだ。だから“まだ”、死んではいない」

「どういう意味ですか? 私は、この世界は結局……。どうして私はこんな所に?」

困惑する私に、秋さんは根気強く、諭すような口調で言葉を続けた。

「ここはね、生者が住まう 此岸(ひがん)と、死者が棲まう 彼岸(ひがん)、その“狭間の世界”なんだ」

「此岸と彼岸の、狭間?」

「そう。人は死んだらまずここへ来る。そしてそれぞれ、ある程度の時を過ごしたら、さっき千晴さんが言った、 所謂(いわゆる)本当の意味での“死後の世界”へと旅立つ。人の言葉で言うと、“成仏する”んだ」

「……あの、ここが私の言いたかった死後の世界とは少し違う場所だということは、分かりました。でも今、死んだらまずここに来るって仰いましたよね? だったらやっぱり私、死んでるんじゃ」

「今日、外で何が行われてたかな?」

唐突な話題の転換に、頭がついていかなくてポカンとしてしまう。

「外? え、えっと、お祭り……ですか?」

しどろもどろになりながら返した答えは、正解だったのだろうか、秋さんが満足気に頷いた。

「うん。年に一度の縁日なんだ。お祭りの日は、あの世とこの世、彼岸と此岸の世が繋がりやすくなる。そして時々いるんだ、千晴さんみたいに、此岸の世からここに迷い込んでくる人が」

彼の口から紡がれた言葉と、これまでの話を繋いで。

「此岸から……? じゃあ、私、生きてる……?」

言葉の意味を頭が理解した途端、私は一気に自分の体から力が抜けていくのを感じた。知らず、詰めていた息が、口から漏れる。

しかし、それも束の間。秋さんの一言が、再び私の身に緊張を走らせた。

「“まだ”、ね」

「え……」