1時間目は宿題のあった古典の授業だったが、僕の宿題を見せた3人は無事にプリントを提出していた。先生いわく、今回の宿題はいつもより配点が高くなるということなので、炉里さんは提出する際、安心したような表情を見せていた。
それで、僕のお陰ということもあってか2時間目の休憩時間の間に炉里さんがこんな提案をしてきたのだ。
――一生のお願いを叶えてくれたお礼に、今日、私のうちに遊びに来てもいいよ。
と。
「確か、炉里さんの家って花カフェやってるんだっけ?」
「うん、小さい子も遊べる花カフェ! どうする、来る? 普通ならジュース500円くらいかかるけど特別に無料だよ!」
炉里さんの自宅は子供も遊べる花をモチーフにしたカフェをやっているということはクラスの中では多くの人が認知しているけれど、実際、行ったことはなかった。炉里さんは少し宣伝めいたような口調で僕を誘ってくる。
「うん、じゃあお言葉に甘えて行かせてもらおうかな」
宿題を見せただけでここまでのお礼をもらう必要はないのかもしれないけれど、せっかく炉里さんが誘ってくれてるんだし、普通なら500円するジュースがただで飲めるんだしせっかくならと思い僕はその誘いにのることにした。
「あ、特別に雫もいいよ!」
「えっ、いいの? やったー!」
僕と2人だけだと少し気まずいと感じたのか、それともただ仲良しである雫さんを誘いたかったのかどうかはわからないけれど、雫さんも誘った。誘われた雫さんはわかりやすく喜んでいた。
「えっ、俺は!?」
「えー、新汰くん? 特に誘う理由がないからなー」
新汰も行きたかったのか、炉里さんに俺は行かせてくれないのー? とわかりやすくアピールしながら聞いていた。雫さんは炉里さんと仲がいいという理由があるけど、別に新汰は炉里さんと特別仲がいいわけでもなければ、炉里さんになにかしてあげたというわけでもないので、今炉里さんの言った通り誘う理由がない。
「んー、でもなんかかわいそうだから特別に誘ちゃおうかな! と、く、べ、つ、だよ!」
あくまで炉里さんは『と、く、べ、つ』という言葉を強調したうえで、渋々と(?)新汰を誘った。
――ただ、僕は❝雫さんと一緒の空間で❞ということを考えていなかった。
炉里さんの家に予定通りに来ると、住居の隣にこじんまりとした(でもオシャレな)お店のような建物があった。ここがカフェだろうか。庭のようなスペースにはガーベラが咲く小さな花壇と、幼稚園生ぐらいの子供が遊べるぐらいの小さなブランコが2つあった。
店内は1人席が4つと、4人がけの席が2つの小さなものだった(今日は元々お休みだったらしく誰もいない)。でも、大きな窓から太陽の光がその空間に広がって特別小さいとは感じなかった。店内がモダンな感じで統一されているのもどこか落ち着く。
そして名前の花カフェの通り壁には所々花が飾られていたり、花の形をした入れ物におしぼりが入っていたりと花に囲まれている空間だった。
「こんにちは」
「こんにちはー」
僕ら4人が席に座ると、店の奥からエプロンを着たお姉さんらしき人が挨拶をしてきた。炉里さんの歳が離れたお姉さんだろうか。
「ねえ、この人お姉さん?」
僕はなんだか気になって気づけば炉里さんにそう聞いていた。でも、炉里さんは急に吹き出しながら笑って、
「いや、違う違う、お母さんだよ!」
と言った。
「えっ、やだ私のことお姉さんだって? 嬉しいね」
炉里さんの言ったことが炉里さんのお母さんの耳にも入ってしまった。少し恥ずかしい。確かに見てみればもう少し上の年齢とも考えられたかもしれないが、僕のお母さんよりも圧倒的に若い。だから、お姉さんだと思ってしまった。
「あ、ごめんなさい」
ここは謝るべきか、特に何も言わずにスルーすべきか悩んだけれど反射的に僕は前者を選択していた。
「いえいえ」
炉里さんのお母さんも少し笑う。それが飛び火したのか雫さんや新汰も笑い出す。僕にもそれが飛び火してきて笑ってしまう。何がおかしいのかよくわからないまま少しの間この空間に突如❝笑い❞が溢れる。
「じゃあ、今から飲み物をお持ちしますね」
「ありがとうございます」
この空間がさっきのように戻ると、炉里さんのお母さんが店の奥の方に戻っていく、僕は炉里さんのお母さんに感謝の言葉としてありがとうございます、という言葉を贈った。
「ねえ、前に来たときみたいに❝贈りカードゲーム❞やらない?」
「あー、あるよ。待ってる間にやろうか」
雫さんが炉里さんに❝贈りカードゲーム❞という僕が聞いたことないような単語をふと出し、炉里さんはそれに反応する。そして、入口付近に行き、そこにあった棚をあさり始めた。
「贈りカードゲームって何?」
僕が気になっていたことを、僕よりも早く新汰が聞いてくれた。
「贈りカードゲームっていうのは、まあやってみればわかるよ。簡単に言うと、人が花を贈るように、このゲームは言葉を贈るの。橙季くんはこのゲーム知ってる?」
「いや、僕も知らないな」
「そうか、これは4人用だけど……まあじゃあとりあえず私と炉里でやってみるね!」
僕も知らないと答えると、雫さんは炉里さんが持ってきたカードのようなものを真剣衰弱のときのようにカードをテーブルに不規則に並べ始めた。カードの表にはなにか文字のようなものが書いてあるようだった。
すべてテーブルに並べ終えると、雫さんがまずは先に1枚カードを引く。
そして、それを表に返す。
『【横隣の人】動物に例えると?』
と雫さんが今引いたカードに書かれていた。
「この場合は、隣の人を動物に例えると何かっていうのを引いた人が言うの。んー、炉里は動物に例えると何だろう……うさぎかな! 運動神経いいし、かわいいし! ……って感じ!」
ルールはなんとなくわかった。引いた人が【 】の中の人に対してお題で出されたことを答えるのか。新汰も理解できたようであー、と言いながら頷いていた。
ルールもわかったところで早速4人で贈りカードゲームを始める。まずは炉里さんが引く。
『【右前の人】お寿司のネタに例えると?』
炉里さんから右前の人は新汰だ。だから、炉里さんは新汰をお寿司に例えるとなにかというのを言わなくてはならない。
「ちょっと難しいの来たなー。人をお寿司に例えることないからなー。……んー、でも、サーモンかな?」
「えっ、俺サーモン? どうして?」
炉里さんから見て新汰はお寿司のネタに例えると、サーモンなのか。それにすぐさま新汰が反応する。
「なんか、特にこれっていう特徴がなかったから、サーモンっていう定番のネタを出したの!」
「おいっ! なんだそれ」
確かに、新汰ってこれっていう特徴はないのかもしれない。だから、サーモンというのは妥当だ。でも、サーモンは子供から人気だし、王道を人気と捉えれば良いチョイスとも感じられるだろう。
次は、雫さんが引く番。
少し悩むような動作をした後に、1枚のカードを選び表に返す。
『【左前の人】どんな印象を持ってる!?』
雫さんからみて左前の人は――僕だ。
えっ、僕!?
僕!?
これはさっきのお題とはうっと変わってガチのお題だ。その人にどういう印象を持っているかという。雫さんはここで僕の気分を害するようなことは言わないだろうけれど、どんな印象を持っているのかをこんな間近で、それも好きな人のを聞くことになるなんて僕の心臓が反応しないわけがない。
「んー、私が感じている橙季くんへの印象かー」
雫さんが考えているような姿を見るたびに僕の恥ずかしいという感情は高まっている。僕が花だったとしたらまだ全然時期が早いのに咲いてしまう……そんなような状況だ。
「少し不思議な人だけど、なにか大切なことに気づかせてくれそうな人かな!」
不思議だけど、大切な事に気づかせてくれそうな人。僕はそこまで深い意味はないはずなのにその言葉を必要以上に深く考えてしまう。どうなんだろうと。自分はそういう人なのかと。
「おー、橙季自身はどう思う? 雫さんが言ってくれたことについて」
「嬉しい言葉けど、んー、そうかなーってちょっと感じてる」
新汰、余計なことを言うな! その通りだと思うと言ったらなんか自分を高く見ているようで少しあれだし、違うと言ってもせっかくその言葉を言ってくれた雫さんに対して申し訳ないし。だから、僕は中間という少しずるいところをとった。
すると、恥ずかしがるなと言いながら僕の肩を新汰が強めにポンポンと叩いた。
別に恥ずかしがっているわけじゃ……。でも、好きな人にそう言われるのはなんだか恥ずかしいという言葉でも表せるのかもしれない。
「じゃあ、俺の番と」
次は新汰の番なので、新汰がわざとらしくどれにしようかなと言いながら一番奥のカードを取った。そして、表に返す。
『【右前の人】誕生日にあげるなら何?』
新汰から見て右前の人は炉里さん。男女でやるとちょっとした恋愛ぽい質問も出てくるのか。ただ、新汰はゲームだからか、それともこのお題を恋愛系とは思っていないのか特にこのお題に対して突っ込むことなく辺りを見回してお題の答えを探しているようだった。ただ、女子力とかとは無縁に思える新汰が場の空気を冷やすことを言わないか、少しながら心配だった。
「んー、炉里さんへのプレゼントは……リボンとかいいかな。髪につけるやつ」
お、意外とやるじゃないか。リボンというチョイスは(僕も別に女子力とかちゃんとわかってるわけじゃないけど)なかなかいいものだと思う。
「おー、いいチョイスしてくるね。ちなみに私の誕生日だいたい1週間後だから買ってもうかな!」
「えっ? まあ嫌じゃないけど、俺がプレゼントするの!?」
「嘘だよ、冗談、冗談! はい、じゃあ最後に橙季くん!」
本当に炉里さんは新汰からプレゼントをもらおうとしてるのかと思ったけれど、やはり冗談だったようだ。ただ、普段はそういうのを面倒くさく思う新汰が嫌じゃないという言葉を使ったのが少し気になった。
気を取り直して最後に僕が引く。今のところ指名されてないのは雫さんのみ。だからというわけではないけれど、最後に雫さんが指名されてほしい気もするし、雫さんだったらちょっと答えづらいという気もする。どちらにしろ、【右上の人】という言葉が出たら雫さんのことについて答えなくてはいけない。
『【右上の人】花に例えると?』
右上の人――雫さん。
そして、お題は彼女を花に例えると何の花か。
炉里さんが一番はじめに出したお寿司のネタに例えるとお題も難しかったかもしれない。でも、花の種類はもっともっと多い。花は全部で20万種ぐらいあると聞いたことがある。
彼女を花に例えるんだとしたらなにになるんだろうか。
チューリップ。バラ。あじさい。コスモス。さくら。ガーベラ。キンモクセイ。かすみ草……考えればきりがないだろう。
炉里さんや新汰からも難しいお題だなーという声が漏れている。
ただ、僕は何の花か5秒足らずで決まった――いや、元々決まっていたのかもしれない。
マイナーな花ではない。でも、皆が聞いたことないようなマニアックすぎる花でもない。
「雫さんを花に例えるなら――」
あのゲームがちょうど僕が答えたことで終了すると、ちょうどいいタイミングで炉里さんのお母さんが飲み物を持ってきてくれた。
少し形の変わったコップに入っているオレンジジュース。そして、ストローには花がくくり付けられていた。
いただきますという言葉を言ってからそのジュースを飲んだ。少し喉が渇いていたので口の中が潤っていく。気のせいだろうけれど少し花の味がしたような気もする。それは気のせいであったとしても、このジュースが美味しいことには変わりない。僕はコップ一杯まで注いであったオレンジジュースをいつの間にか飲み終えていた。飲んでいる間は4人で学校や趣味の話をしていた。
特に印象に残った話はあれだろうか。新汰には自称だけど未来の予知能力がある話。今までにも1週間後にお金が入ると予知し、実際に地域福引をして1万円文の商品券があたったらしい(ただ、それは新汰のお母さんの手に渡ってしまったみたいだけど)。
で、その予知能力で僕ら4人を見てみると、なんと4人とも❝数日後に欲しいものが手に入る❞という未来が見えたらしい。
特に僕は信じているわけではないけれど、でも、そのことが頭の隅っこに残ってしまった。
それで、僕のお陰ということもあってか2時間目の休憩時間の間に炉里さんがこんな提案をしてきたのだ。
――一生のお願いを叶えてくれたお礼に、今日、私のうちに遊びに来てもいいよ。
と。
「確か、炉里さんの家って花カフェやってるんだっけ?」
「うん、小さい子も遊べる花カフェ! どうする、来る? 普通ならジュース500円くらいかかるけど特別に無料だよ!」
炉里さんの自宅は子供も遊べる花をモチーフにしたカフェをやっているということはクラスの中では多くの人が認知しているけれど、実際、行ったことはなかった。炉里さんは少し宣伝めいたような口調で僕を誘ってくる。
「うん、じゃあお言葉に甘えて行かせてもらおうかな」
宿題を見せただけでここまでのお礼をもらう必要はないのかもしれないけれど、せっかく炉里さんが誘ってくれてるんだし、普通なら500円するジュースがただで飲めるんだしせっかくならと思い僕はその誘いにのることにした。
「あ、特別に雫もいいよ!」
「えっ、いいの? やったー!」
僕と2人だけだと少し気まずいと感じたのか、それともただ仲良しである雫さんを誘いたかったのかどうかはわからないけれど、雫さんも誘った。誘われた雫さんはわかりやすく喜んでいた。
「えっ、俺は!?」
「えー、新汰くん? 特に誘う理由がないからなー」
新汰も行きたかったのか、炉里さんに俺は行かせてくれないのー? とわかりやすくアピールしながら聞いていた。雫さんは炉里さんと仲がいいという理由があるけど、別に新汰は炉里さんと特別仲がいいわけでもなければ、炉里さんになにかしてあげたというわけでもないので、今炉里さんの言った通り誘う理由がない。
「んー、でもなんかかわいそうだから特別に誘ちゃおうかな! と、く、べ、つ、だよ!」
あくまで炉里さんは『と、く、べ、つ』という言葉を強調したうえで、渋々と(?)新汰を誘った。
――ただ、僕は❝雫さんと一緒の空間で❞ということを考えていなかった。
炉里さんの家に予定通りに来ると、住居の隣にこじんまりとした(でもオシャレな)お店のような建物があった。ここがカフェだろうか。庭のようなスペースにはガーベラが咲く小さな花壇と、幼稚園生ぐらいの子供が遊べるぐらいの小さなブランコが2つあった。
店内は1人席が4つと、4人がけの席が2つの小さなものだった(今日は元々お休みだったらしく誰もいない)。でも、大きな窓から太陽の光がその空間に広がって特別小さいとは感じなかった。店内がモダンな感じで統一されているのもどこか落ち着く。
そして名前の花カフェの通り壁には所々花が飾られていたり、花の形をした入れ物におしぼりが入っていたりと花に囲まれている空間だった。
「こんにちは」
「こんにちはー」
僕ら4人が席に座ると、店の奥からエプロンを着たお姉さんらしき人が挨拶をしてきた。炉里さんの歳が離れたお姉さんだろうか。
「ねえ、この人お姉さん?」
僕はなんだか気になって気づけば炉里さんにそう聞いていた。でも、炉里さんは急に吹き出しながら笑って、
「いや、違う違う、お母さんだよ!」
と言った。
「えっ、やだ私のことお姉さんだって? 嬉しいね」
炉里さんの言ったことが炉里さんのお母さんの耳にも入ってしまった。少し恥ずかしい。確かに見てみればもう少し上の年齢とも考えられたかもしれないが、僕のお母さんよりも圧倒的に若い。だから、お姉さんだと思ってしまった。
「あ、ごめんなさい」
ここは謝るべきか、特に何も言わずにスルーすべきか悩んだけれど反射的に僕は前者を選択していた。
「いえいえ」
炉里さんのお母さんも少し笑う。それが飛び火したのか雫さんや新汰も笑い出す。僕にもそれが飛び火してきて笑ってしまう。何がおかしいのかよくわからないまま少しの間この空間に突如❝笑い❞が溢れる。
「じゃあ、今から飲み物をお持ちしますね」
「ありがとうございます」
この空間がさっきのように戻ると、炉里さんのお母さんが店の奥の方に戻っていく、僕は炉里さんのお母さんに感謝の言葉としてありがとうございます、という言葉を贈った。
「ねえ、前に来たときみたいに❝贈りカードゲーム❞やらない?」
「あー、あるよ。待ってる間にやろうか」
雫さんが炉里さんに❝贈りカードゲーム❞という僕が聞いたことないような単語をふと出し、炉里さんはそれに反応する。そして、入口付近に行き、そこにあった棚をあさり始めた。
「贈りカードゲームって何?」
僕が気になっていたことを、僕よりも早く新汰が聞いてくれた。
「贈りカードゲームっていうのは、まあやってみればわかるよ。簡単に言うと、人が花を贈るように、このゲームは言葉を贈るの。橙季くんはこのゲーム知ってる?」
「いや、僕も知らないな」
「そうか、これは4人用だけど……まあじゃあとりあえず私と炉里でやってみるね!」
僕も知らないと答えると、雫さんは炉里さんが持ってきたカードのようなものを真剣衰弱のときのようにカードをテーブルに不規則に並べ始めた。カードの表にはなにか文字のようなものが書いてあるようだった。
すべてテーブルに並べ終えると、雫さんがまずは先に1枚カードを引く。
そして、それを表に返す。
『【横隣の人】動物に例えると?』
と雫さんが今引いたカードに書かれていた。
「この場合は、隣の人を動物に例えると何かっていうのを引いた人が言うの。んー、炉里は動物に例えると何だろう……うさぎかな! 運動神経いいし、かわいいし! ……って感じ!」
ルールはなんとなくわかった。引いた人が【 】の中の人に対してお題で出されたことを答えるのか。新汰も理解できたようであー、と言いながら頷いていた。
ルールもわかったところで早速4人で贈りカードゲームを始める。まずは炉里さんが引く。
『【右前の人】お寿司のネタに例えると?』
炉里さんから右前の人は新汰だ。だから、炉里さんは新汰をお寿司に例えるとなにかというのを言わなくてはならない。
「ちょっと難しいの来たなー。人をお寿司に例えることないからなー。……んー、でも、サーモンかな?」
「えっ、俺サーモン? どうして?」
炉里さんから見て新汰はお寿司のネタに例えると、サーモンなのか。それにすぐさま新汰が反応する。
「なんか、特にこれっていう特徴がなかったから、サーモンっていう定番のネタを出したの!」
「おいっ! なんだそれ」
確かに、新汰ってこれっていう特徴はないのかもしれない。だから、サーモンというのは妥当だ。でも、サーモンは子供から人気だし、王道を人気と捉えれば良いチョイスとも感じられるだろう。
次は、雫さんが引く番。
少し悩むような動作をした後に、1枚のカードを選び表に返す。
『【左前の人】どんな印象を持ってる!?』
雫さんからみて左前の人は――僕だ。
えっ、僕!?
僕!?
これはさっきのお題とはうっと変わってガチのお題だ。その人にどういう印象を持っているかという。雫さんはここで僕の気分を害するようなことは言わないだろうけれど、どんな印象を持っているのかをこんな間近で、それも好きな人のを聞くことになるなんて僕の心臓が反応しないわけがない。
「んー、私が感じている橙季くんへの印象かー」
雫さんが考えているような姿を見るたびに僕の恥ずかしいという感情は高まっている。僕が花だったとしたらまだ全然時期が早いのに咲いてしまう……そんなような状況だ。
「少し不思議な人だけど、なにか大切なことに気づかせてくれそうな人かな!」
不思議だけど、大切な事に気づかせてくれそうな人。僕はそこまで深い意味はないはずなのにその言葉を必要以上に深く考えてしまう。どうなんだろうと。自分はそういう人なのかと。
「おー、橙季自身はどう思う? 雫さんが言ってくれたことについて」
「嬉しい言葉けど、んー、そうかなーってちょっと感じてる」
新汰、余計なことを言うな! その通りだと思うと言ったらなんか自分を高く見ているようで少しあれだし、違うと言ってもせっかくその言葉を言ってくれた雫さんに対して申し訳ないし。だから、僕は中間という少しずるいところをとった。
すると、恥ずかしがるなと言いながら僕の肩を新汰が強めにポンポンと叩いた。
別に恥ずかしがっているわけじゃ……。でも、好きな人にそう言われるのはなんだか恥ずかしいという言葉でも表せるのかもしれない。
「じゃあ、俺の番と」
次は新汰の番なので、新汰がわざとらしくどれにしようかなと言いながら一番奥のカードを取った。そして、表に返す。
『【右前の人】誕生日にあげるなら何?』
新汰から見て右前の人は炉里さん。男女でやるとちょっとした恋愛ぽい質問も出てくるのか。ただ、新汰はゲームだからか、それともこのお題を恋愛系とは思っていないのか特にこのお題に対して突っ込むことなく辺りを見回してお題の答えを探しているようだった。ただ、女子力とかとは無縁に思える新汰が場の空気を冷やすことを言わないか、少しながら心配だった。
「んー、炉里さんへのプレゼントは……リボンとかいいかな。髪につけるやつ」
お、意外とやるじゃないか。リボンというチョイスは(僕も別に女子力とかちゃんとわかってるわけじゃないけど)なかなかいいものだと思う。
「おー、いいチョイスしてくるね。ちなみに私の誕生日だいたい1週間後だから買ってもうかな!」
「えっ? まあ嫌じゃないけど、俺がプレゼントするの!?」
「嘘だよ、冗談、冗談! はい、じゃあ最後に橙季くん!」
本当に炉里さんは新汰からプレゼントをもらおうとしてるのかと思ったけれど、やはり冗談だったようだ。ただ、普段はそういうのを面倒くさく思う新汰が嫌じゃないという言葉を使ったのが少し気になった。
気を取り直して最後に僕が引く。今のところ指名されてないのは雫さんのみ。だからというわけではないけれど、最後に雫さんが指名されてほしい気もするし、雫さんだったらちょっと答えづらいという気もする。どちらにしろ、【右上の人】という言葉が出たら雫さんのことについて答えなくてはいけない。
『【右上の人】花に例えると?』
右上の人――雫さん。
そして、お題は彼女を花に例えると何の花か。
炉里さんが一番はじめに出したお寿司のネタに例えるとお題も難しかったかもしれない。でも、花の種類はもっともっと多い。花は全部で20万種ぐらいあると聞いたことがある。
彼女を花に例えるんだとしたらなにになるんだろうか。
チューリップ。バラ。あじさい。コスモス。さくら。ガーベラ。キンモクセイ。かすみ草……考えればきりがないだろう。
炉里さんや新汰からも難しいお題だなーという声が漏れている。
ただ、僕は何の花か5秒足らずで決まった――いや、元々決まっていたのかもしれない。
マイナーな花ではない。でも、皆が聞いたことないようなマニアックすぎる花でもない。
「雫さんを花に例えるなら――」
あのゲームがちょうど僕が答えたことで終了すると、ちょうどいいタイミングで炉里さんのお母さんが飲み物を持ってきてくれた。
少し形の変わったコップに入っているオレンジジュース。そして、ストローには花がくくり付けられていた。
いただきますという言葉を言ってからそのジュースを飲んだ。少し喉が渇いていたので口の中が潤っていく。気のせいだろうけれど少し花の味がしたような気もする。それは気のせいであったとしても、このジュースが美味しいことには変わりない。僕はコップ一杯まで注いであったオレンジジュースをいつの間にか飲み終えていた。飲んでいる間は4人で学校や趣味の話をしていた。
特に印象に残った話はあれだろうか。新汰には自称だけど未来の予知能力がある話。今までにも1週間後にお金が入ると予知し、実際に地域福引をして1万円文の商品券があたったらしい(ただ、それは新汰のお母さんの手に渡ってしまったみたいだけど)。
で、その予知能力で僕ら4人を見てみると、なんと4人とも❝数日後に欲しいものが手に入る❞という未来が見えたらしい。
特に僕は信じているわけではないけれど、でも、そのことが頭の隅っこに残ってしまった。