コレタマ部を作った帰り、星弥は駅前まで足を延ばしてスーパーマーケットに行き、鈴心が喜びそうな可愛らしいノートをいくつか見繕った後帰宅した。
 
「ただいまあ」
 
 玄関に入ると、母親が弾んだ声で星弥を迎え、急かすように手招きをしている。
 
「おかえり、星弥!こっちこっち!」
 
「お母様?どうかしたの?」
 
 促されるまま応接室に入ると、部屋の中央で鈴心が今自分が着ているものと同じ服を着させられて立っていた。
 傍らでは銀騎家お抱えのテイラーがまち針を巧みに操って鈴心の着ている制服を調整している。
 
「──」
 人間は驚き過ぎると何も言葉が出てこないし、思考もうまく回らない。十六年生きてきて、星弥はその事をこの日思い知った。
 
「ねえ?可愛いでしょ?」
 
 ウキウキでルンルンの母に尻込みしながら、星弥はなんとか現状について問いかける。
 その様を鈴心は居心地悪そうに頬を赤らめながら見ていた。
 
「あ、う……、な、何事?」
 
「すぅちゃんがね、高校に通うことになったのよ。あなたと同じ一年生で!」
 
「え!?だってすずちゃんはまだ中学生でしょ?」
 
 母からの突拍子もない説明に驚いていると、すぐ後ろで補足が聞こえてきた。
 
「──中学の過程はとっくに終えてるからね」
 
「兄さん!」
 
 振り返ると皓矢(こうや)がそこに立っており、母親同様に上機嫌だった。
 
「うん、鈴心、よく似合ってるよ」
 
「どうも……」
 
 鈴心はますます顔を赤らめて一言呟く。ニコニコの兄に、星弥は改めて聞いた。
 
「兄さん、どういうこと?」
 
「うん、ここ最近、僕の研究が忙しくて鈴心にろくに教えてあげられていないからね。最近は体調も安定してるし、学校に行かせたらどうかとお祖父様がね」
 
「お、お祖父様が!?」
 
 星弥は直感でヤバイと思った。祖父が突然そんなことをするなんて、確実にあの二人が関係しているせいだ。
 
「とは言え、たった一人で中学校へ行かせて体調を崩したら大変だから、星弥と同じ高校に編入手続きをとったんだよ。飛び級の帰国子女ってことにしてね」
 
「──」
 どうする、反対するべきか。それともこれを逆に利用するのか。周防くんならどうするだろう、唯くんはどう思うだろう。
 
 色々なことが瞬時に星弥の頭を駆け巡っているうちに、皓矢が先んじて結論を突きつけた。
 
「だから星弥、よろしく頼んだよ?」
 
「星弥、私からもお願いね」
 
 しかも母の後押し付きで。
 こうなっては星弥に状況を覆すことなどできない。そもそも祖父の意向に逆らえるはずもない。
 そうしてあれよあれよという間に、今日を迎えてしまった。