外に出ると凍えるような寒さで、白息が出る季節。もうすぐ一月、こんなに寒いんだ……と思い知らされる。
「雅也くんっ! メリークリスマス!」
病室で退屈していると、菜々花が僕のところへ来てくれた。菜々花がいると、場が明るくなるし、僕の心も晴れる。本当に素敵な子だ。
「え、今日って……」
「クリスマスだよ! だから私からプレゼント」
――そうか、クリスマス。小学生のときはいつもサンタがプレゼントを届けてくれたし、クラスメイトにもメリークリスマス、と言っていた。中学生になるとそういう概念は無くなっていた。
「プレゼント?」
「うんっ、何がいい? 私が誕生日のとき、雅也くんのことを色々教えてくれたでしょ?」
……今の僕には、欲しい物はない。強いていえば、幸せに送れる日々くらいだろうか。
「……じゃあ、菜々花のことを知りたい」
そう言うと、菜々花は目を丸くさせ、驚いた表情をしていた。
「いいの? そんなんで」
「もちろん。僕は菜々花のことをもっと知りたい。打ち明けてほしい」
――菜々花が何故この病院に入院しているのか。どうしてこんなに明るくて素敵な子なのか。“笹木菜々花”という人物のことをもっと知りたい、と思った。
「……私は、小学生の頃、両親を失った」
菜々花はゆっくりと話し始めた。
「それで小学二年生くらいのときに、この近くの施設に入れられた。しかも私、母親に虐待されてたの。皆にそれを知られて、私を仲間外れにして。本当に辛かった」
――待って。それって……。
「中学生になる頃の春、、急に食欲が無くなって、お腹が痛くなることも多くなって。検査を受けたら、“膵臓癌”だった」
僕は喉に何かが詰まったように、言葉を失った。
「5年も生きられないって言われて。最近息切れもするし、食べたら吐いての繰り返し。お医者さんにも言われけど――もう少ないんだなって思った」
でもね、と彼女は続けた。
「そんなときに雅也くんと出会ったの。……ううん、再会したの」
――やっぱりそうだったんだ。
「あのときの少女は君だったんだね、菜々花」
「……思い出してくれた?」
あのとき、男子達に虐められていた少女は
菜々花だった。
「私、雅也くんにまた会いたかった。でも病気になっちゃって、名前も知らなくて、会えないまま死んじゃうのかなって。そしたら外庭で雅也くんがいるのを見かけて。運命だなって思った」
――菜々花と話すと、菜々花にバイバイと言われる度にどこか懐かしさを感じた。あのとき僕が助けた少女だったんだ……。
「雅也くんに一度、言おうと思ったの。私のこと覚えてる? って。でもタイミングが合わなくて……」
菜々花の誕生日のとき。確かに彼女は口を開きかけていた。看護師が来て、結局話さなかったけれど。あのとき伝えようとしてくれてたんだ――。
「雅也くん、本当にありがとう。両親がいなくて、虐められて、死にたいと思ったくらい絶望していた私を救ってくれたのは雅也くんだったの」
菜々花はいつもよりも少し悲しげな表情をしていた。
「……菜々花。僕は君のことが好きだ」
「……っ」
自分の気持ちに嘘はつかない。もう少ししか生きられないんだから、後悔はしたくない。
「僕は菜々花と出会ったときから好きだった。明るくて無邪気にはしゃぐ菜々花のことを」
「……私も、助けてくれたときからずっと好きだったよ。雅也くんともう一度再会できて、好きになってもらえて。こんな幸せなことあるんだあ……っ」
そう言って彼女は一粒の涙を流した。僕達はお互い声を押し殺して泣きながら、雲一つない青空を見上げていた。
「雅也くんっ! メリークリスマス!」
病室で退屈していると、菜々花が僕のところへ来てくれた。菜々花がいると、場が明るくなるし、僕の心も晴れる。本当に素敵な子だ。
「え、今日って……」
「クリスマスだよ! だから私からプレゼント」
――そうか、クリスマス。小学生のときはいつもサンタがプレゼントを届けてくれたし、クラスメイトにもメリークリスマス、と言っていた。中学生になるとそういう概念は無くなっていた。
「プレゼント?」
「うんっ、何がいい? 私が誕生日のとき、雅也くんのことを色々教えてくれたでしょ?」
……今の僕には、欲しい物はない。強いていえば、幸せに送れる日々くらいだろうか。
「……じゃあ、菜々花のことを知りたい」
そう言うと、菜々花は目を丸くさせ、驚いた表情をしていた。
「いいの? そんなんで」
「もちろん。僕は菜々花のことをもっと知りたい。打ち明けてほしい」
――菜々花が何故この病院に入院しているのか。どうしてこんなに明るくて素敵な子なのか。“笹木菜々花”という人物のことをもっと知りたい、と思った。
「……私は、小学生の頃、両親を失った」
菜々花はゆっくりと話し始めた。
「それで小学二年生くらいのときに、この近くの施設に入れられた。しかも私、母親に虐待されてたの。皆にそれを知られて、私を仲間外れにして。本当に辛かった」
――待って。それって……。
「中学生になる頃の春、、急に食欲が無くなって、お腹が痛くなることも多くなって。検査を受けたら、“膵臓癌”だった」
僕は喉に何かが詰まったように、言葉を失った。
「5年も生きられないって言われて。最近息切れもするし、食べたら吐いての繰り返し。お医者さんにも言われけど――もう少ないんだなって思った」
でもね、と彼女は続けた。
「そんなときに雅也くんと出会ったの。……ううん、再会したの」
――やっぱりそうだったんだ。
「あのときの少女は君だったんだね、菜々花」
「……思い出してくれた?」
あのとき、男子達に虐められていた少女は
菜々花だった。
「私、雅也くんにまた会いたかった。でも病気になっちゃって、名前も知らなくて、会えないまま死んじゃうのかなって。そしたら外庭で雅也くんがいるのを見かけて。運命だなって思った」
――菜々花と話すと、菜々花にバイバイと言われる度にどこか懐かしさを感じた。あのとき僕が助けた少女だったんだ……。
「雅也くんに一度、言おうと思ったの。私のこと覚えてる? って。でもタイミングが合わなくて……」
菜々花の誕生日のとき。確かに彼女は口を開きかけていた。看護師が来て、結局話さなかったけれど。あのとき伝えようとしてくれてたんだ――。
「雅也くん、本当にありがとう。両親がいなくて、虐められて、死にたいと思ったくらい絶望していた私を救ってくれたのは雅也くんだったの」
菜々花はいつもよりも少し悲しげな表情をしていた。
「……菜々花。僕は君のことが好きだ」
「……っ」
自分の気持ちに嘘はつかない。もう少ししか生きられないんだから、後悔はしたくない。
「僕は菜々花と出会ったときから好きだった。明るくて無邪気にはしゃぐ菜々花のことを」
「……私も、助けてくれたときからずっと好きだったよ。雅也くんともう一度再会できて、好きになってもらえて。こんな幸せなことあるんだあ……っ」
そう言って彼女は一粒の涙を流した。僕達はお互い声を押し殺して泣きながら、雲一つない青空を見上げていた。