蝉が泣いて、色々な家から風鈴の音が鳴り響くようになった真夏。汗が頬にダラダラ垂れてきて気持ちが悪い。僕はこの季節が一番嫌いだ。まあ、この季節とはもうさよならすることになるのだろうけど。

「……っ」

 僕は病院に向かっている途中、急に胸がとてつもなく痛くなった。これまでにはない、重りが乗ったような痛み。救急車を呼ぼうと思ったが、手に力が入らなかった。

「雅也くんっ、大丈夫!?」

 意識が遠のいていく中、一人の少女が駆けつけてくれた。――菜々花だ。

「今、救急車呼ぶからね」

「……なんで、菜々花が、ここに」

「雅也くん、今日来てくれるって言ったのに遅いんだもん。私が探しに行こうと思って」

 そう言って菜々花は心配そうに微笑んだ。僕は自分に“死”が確実に近づいていることを悟った。

 ふと気がつくと、僕は呼吸器をつけられ、病院のベッドにいた。

「雅也様、お気づきになられましたか」

「……あの、僕は一体……」

「先生が仰っていた通り、雅也様の症状は悪化するばかりだそうです。だから入院したほうがいいとのことで」

 ――やっぱり、僕はもう死が近いんだろう。確かに入院したいが、お金がない。

「僕両親がいなくて、お金が……」

「あ、それなら大丈夫です。もう払われているので」

 ……え? 一体、誰が……? 親族が僕の状況を知って払ってくれたのだろうか。

「雅也くん大丈夫だった!?」

 廊下でドタドタと走る音が聞こえた。菜々花が僕を心配して病室に来てくれた。

「……ごめん、菜々花。本当にありがとう」

「もう、本当だよ。心配したんだからね。ていうか雅也くんも入院するんでしょ?」

 僕は頷いた。まあ、入院なんてしたくなかったけれど、もうお金も払っているんだから仕方がない。それに、菜々花と話す機会がもっと増えるかもしれない、と考えてしまった。

「やったあ、毎日来るね、ここ!」

「菜々花様、もうすぐ検査の時間です」

「あ、はーい。バイバイ、雅也くんっ!」

  僕は何か懐かしさを感じながら、部屋で一人、ただ何もせずボーっとしていた。